「行くぞ、奈楠」
『うん』
「はいこれ、今回の暗証番号。ズゥ老師とバクちゃんに宜しくね」
『行ってきます、室長』



行ってらっしゃい、と手を振るコムイに笑い返して、奈楠は神田の元へと向かう。奈楠は神田の隣を歩き、アジア支部に繋がるゲートへと足を進めた。



『ズゥ爺っさま、元気かな』
「さぁな。……耳は遠くなったんじゃねぇか?」
『補聴器無くしては困ってたもんねぇ……主にフォーが』



アジア支部の守り神であるフォーを思い浮かべ、思わず笑みが零れる。あの我が儘支部長を押え付けるために、毎度毎度駆り出されるのが、ウォンと科学班3人組、そしてフォーだ。フォーは長年アジア支部を守ってきたからか、何処か姉御肌な一面もある。まぁ、本人が聞いたら全否定しそうだけれど。



行けばいつも何かしら面白いことをしている彼らを思い出し、今回も騒いでるのかな……と少しだけアジア支部に行くのが楽しみになる。そう思えば、足取りも少しは軽くなった。



そんな奈楠を、神田は少し呆れたように、それでいて見守るように見つめていた。



















方舟内に入り、アジア支部の張り紙が貼られたゲートの前に立つ。アジア支部である事を確認し、2人はゲートを通り抜けた。少し風通しの良い湿った空気が鼻につく。懐かしいようなその空気に、無意識に肩の強ばりが直っていた。



「さぁさ、お仕事戻りましょーね!支部長〜〜」
「方舟来てからすっかりお出かけ癖が継いちゃって、困ったもんだ」
「ま、まてっ!離せぇッ!!」
「!ご苦労様です、暗証番号を!」
「あぁ」



何か騒がしいな……とその方向を見れば、そこには科学班3人組とウォン、フォー、それにバクの姿。彼らの視線がこちらに向き、神田と奈楠の視線も合う。



「!かっ、神田ユウに、奈楠さん……ッ!?」



両手両足を拘束されて持ち上げられているバクの姿に、思わず全身の動きが止まった奈楠と神田だった。



























「なんだ、ズゥ爺っさまに呼ばれたのか」



「「「奈楠さーんッ!!!」」」という、科学班3人組に熱烈な歓迎を受けた奈楠は、少々困惑しながらも何とか彼らを宥め、フォーと共にズゥ老師を探してもらうように頼んだ。快く引き受けてくれた彼らに感謝し、神田と奈楠はバクに案内されて応接室へと向かった。神田は窓枠に寄りかかり、奈楠もその隣に腰掛ける。敢えて椅子に座らないのは、客人ではないというせめてもの抵抗だろうか。



「ツラ見せろってな。……どっかの支部長じゃねぇーんだ、ワケもなく来るかよ」
「………………(←ワケもなくよく本部に行ってるどっかの支部長)」
「バク様ほら見て、茶柱立ってますよ?」
「……ち…………」
『(ハハハ……)』



奈楠は不機嫌になり始めた神田を苦笑して見やり、バクに頭を下げる。あわあわとして頭を上げるよう言ったバクに微笑めば、彼は更に動揺し、自身を落ち着かせるように椅子に腰掛けた。



「ま、まぁ、“六幻”と“紅”は爺っさまが打ってきた業物の中で1番思い入れがある物だからな、使い手のキミらの事も心配してるんだろう」
「『………………………………』」
「……………………………………」
「……………………………………」






















「(気まずい)」
「(バク様ビビらずどんどんお話になって)」
「(だって顔が怖い!)」










「また、はじめたんだな…………今度は半AKUMAにしてAKUMAを喰わせんだって?……すげえ発想」
「!!(第三エクソシストのこと……ッ)」



ボソリ、と神田が口にした呟きは意外と大きく、部屋に反響した。神田の言葉を聞いたバクは思わず立ち上がり、ジリジリと神田に近づいてゆく。奈楠はずっと腕を組み、下を向いたままで、顔を上げることは頑なにしなかった。



「やはり、キミを傷つけてしまったか…ッ」
「……は?」
「いや、傷ついて当然だ……ッ、すまん!神田!!」
「まてオイ」
「キミにした誓いを我々は守れなかった」
「ちょ……ッ」
「殴れ!!言い訳はせん!ボクを殴りたまえ神田!!思いっきり殴「傷ついてねぇよッ!!」ぐはぁッ!」
「バクさまーッ!」
「勝手な妄想はやめろ」



神田の静止を聞かずに殴れ殴れと連呼するバクにイラついた神田は、容赦なくバクの頬に右ストレートをかます。ゆらぁ……とバクを睨みつける様は鬼そのものだ。ハ、と吐き捨てるように笑い、バクを見下ろす。



「謝る必要なんざねーよ、教団がどうなろうが俺にはどうだって良いことだ」
「……キミがそうでも、我々にとってキミは……そうではない。……9年前、中央庁が圧した人造使徒計画でキミを造り出したのは、我々の一族だ……」



バクが喋り出したのを聞き、神田はバッと奈楠の方を振り返る。しかし、腕組みをして俯き、顔をあげようとしない奈楠を見て、再びゆっくりとバクに視線を戻した。



「“第二(セカンド)エクソシスト”などという幻想に囚われ、大きな過ちを犯したのは……ボクのチャン家と、レニーのエプスタイン一族なのだから……ッ」






















神田



まだ花が見えるかい











そうか……



このことは、お前と私だけの秘密にしておこう















囚われてはいかんよ



それは幻だ

























その花は幻だ


















(一面に広がる蓮の花は、)
(いつだって自分を締め付けてくる)
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