「しっかりしてくれよズゥ爺っさま〜〜〜!なんで補聴器がパンツの中に入っちゃってんだよ汚ぇなー!!!」
「食事時間無くなっちゃったじゃないですか〜〜〜」
「ボクもう食事する気分じゃなくなったよ……」
「年かねぇ……」
「年だよこのオイボレジジー!!」



厨房でズゥ老師を見つけたフォーと科学班3人組は、ついでに無くした補聴器を探し当て、神田と奈楠、バクが待っている応接室へと向かっていた。



「あっ」
「ん?」
「ウォーカーさん!」
「リナリーちゃん!」



蝋花と李佳が見つけたのは、アレンとリナリー、そしてリンクだった。ゲートの傍の衛兵に暗証番号を伝えていたらしい2人は、ニコニコしながら蝋花達の元へと歩いて行く。



「こんにちは蝋花さん、この間は奈楠に差し入れてたパンケーキを、僕まで頂いちゃって……本当にありがとうございます」
「!?お、お口に合いましたか!?」
「うん、奈楠も凄く喜んでました」
「ほ、本当ですか……!良かった!」
「リナリーちゃんどしたの?珍しいね」
「あ、実は任務が入って……」



久しぶりに顔を合わせる4人は、話に花が咲くようで。笑いながら話していれば、そこにズイ、と割り込むように入ってくるリンク。



「ウォーカー!しゃべくってる時間はありません、早く奈楠と神田ユウを呼びに行きますよ」
「はいはい」
「我々はここでお待ちしてますよ」
「!」
「さっさとお願いしますね使徒様」


















「イスタンブールでちょっと大きな任務が入って、奈楠と神田を呼びに来たんですよどこにいるか知ってますか?」
「あぁ、今支部長と一緒かな。ズゥ爺っさまに用があるらしくて、今から連れてくんだ」
「そうなんですか」
「……あの人達が半AKUMAっていう、第三エクソシストですか……?」



アレンの肩越しにトクサとゴウシの事を見た蝋花が尋ねる。その表情は少し曇っている。



「何かヤな感じ。バク支部長が怒るのも分かります。私も今回のことはどうかと思いますもん」
「でもさ、戦力は間違いなくアップするじゃん。仕方ないんじゃね?イノセンスの適合者はいつ現れるか分かんないんだしさ、あーゆー存在がいてくれた方がウォーカー達の負担が減るじゃんよ」
「でも仲間を半AKUMAにするって……それって結局伯爵と変わんなくない?」
「ちょ……?2人とも?」
「口先だけで正論吐くのは簡単だけど、それだけじゃこの戦争には勝てねんじゃねェの!?蝋花は分かってねーんだよ、負けたら俺達殺されるんだぜ?」
「ッだからなによーッ!!!」



ヒートアップしていた蝋花と李佳の口論が突然終わりを告げた。蝋花の叫びは通路に響き渡る。ギョッとした顔で一同は蝋花を見る。プルプルと白衣を握りしめ、涙を我慢しているその姿を見た李佳は焦る。



「お、おい!?」
「そんなことして勝ったって、気分良くないなって、思ったんだもん……!」



とうとう零れたその涙に、アレンとシィフは固まる。更に焦った李佳の肩にアレンが腕を回し、シィフが李佳の腹を肘で思いっきり突く。



「何やってんだよ李佳」
「謝りましょうか李佳。女の子泣かしたアカン」
「ご、ごめんなさいッ」
「(…………………)」
「泣かないで、蝋花さん」



リナリーが蝋花を慰め、アレンは屈んで蝋花にニッコリと笑う。



「大丈夫だよ、蝋花さん。教団がどうなっていっても……僕らは僕らだ。僕らが変わらず信じて進めば、大丈夫ですよ。未来できっと笑っていられるって」



“大丈夫”。この時僕は、その言葉をお守りのように唱えていた。




















「……未来か……。……いやはや、己の罪を、思い知らされるなぁ……」
「ズゥ」


















なぁ、神田よ



まだ花は見えるのかい…………?





































奈楠とリナリー、神田とアレン、リンクはアジア支部のゲートへと向かっていた。ズゥ老師は、本当に神田と奈楠の顔が見れれば良かったらしく、“六幻”と“紅”の様子を確かめ、奈楠と抱擁を交わしてすぐに何処かへ行ってしまった。神田は始終不機嫌そうで一言も発しなかったが、それでもズゥ老師の元気そうな姿を見て少しホッとしていたようだった。



奈楠は、袋に入れられた2つの鞘を見つめた。ズゥ老師との別れ際に、渡されたものだった。“紅”の名にふさわしい、真紅の鞘。刀は入っておらず、鞘のみ。それが意味することは、ただ一つだった。



『(……ズゥ爺っさま…………)』

























「……イードレの鞘だ。イードレが使うはずだった物なんだが……。……やはり、鞘は有るべき所に無ければならんと思ってな」
「………………(この鞘、は)」



その鞘を見て固まっていたのは奈楠だけではなかった。奈楠の傍で、神田もその鞘を見て固まっていたのだ。そんな2人を不思議そうに見つめるのはアレンとリナリーだ。ズゥ老師は真っ直ぐに奈楠の瞳を見つめていた。奈楠はグ、と拳を握り、鞘を受け取った。



『……ありがとうズゥ爺っさま』
「かまわんよ、老いぼれの好きでやってる事だ」
「また来いよー」
『うん、フォーもありがとね』



ゲートへと向かう道すがら、アレンとリナリーにイスタンブールでの任務の内容を聞く。コムイから資料は受け取っているらしく、このまま直接現地へ向かうとのこと。頑張るか、と気合を入れて、また1歩ゲートへと踏み出そうとした次の瞬間だった。
























「“奈楠・本多元帥、至急8番ゲートへ。ルベリエ長官と室長がお待ちです”」























「「「!!?」」」
『………………、』



リィムの通信機能から突如聞こえてきた司令に、皆は一斉に足を止めて奈楠を見る。それは奈楠も同じだ。はぁ、と1つ溜息を吐いてリィムを見る。



『……今行きます』
「ちょ、奈楠……!どういう事です!?長官が呼んでるって、一体……!」
「奈楠……!何でルベリエ長官が!?だって、奈楠は私達との任務が……!」




心底驚いたような神田は何も言わず、アレンはどうして!?と奈楠に詰め寄る。ルベリエにトラウマがあるリナリーは顔を真っ青にして奈楠の腕を揺さぶる。安心させるように抱きしめ、頭を撫でれば、リナリーは次第に落ち着いていく。最後にポンポン、と頭と背中で優しく手を弾ませ、リナリーから腕を離す。リンクはすべて知っているかのように、同様せず、何も言わない。タ、と皆から1歩離れ、クルッと回って奈楠は笑った。



『……ごめんね皆、行ってくる』
「奈楠……ッ、奈楠!」
『大丈夫リナリー!心配いらないよ!』
「奈楠……!!」
『ほらほらアレンも!しっかり任務を全うしてよ!また、直ぐに会えるから!……リンク、アレンを宜しくね!』
「言われなくとも」
『……神田!』
「………………行ってこい」
『……………………行ってきます!』



ねぇ奈楠、私の天使さま。貴女は一体何処に行ってしまうの?貴女はいつも私の隣にいてくれるけど、いつも距離が遠く感じる。



お願い奈楠、私の前から消えないで。



















信じていれば、大丈夫

(かみさまなんて、だいきらい)
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