死者達が徘徊する最中を、二人は取り立てて慌てる様子もなく行き交っていた。
「お兄様、どうなさる気?」
「――そうだね。これからどうすべきかな、梓。俺はとりあえず武器を取りに戻るのが先かと思っているんだけど」
「あ……」
物陰に身を潜めていると、ふと梓が何かに気付いたらしかった。屈みこみ、垂れてくる艶やかなその横髪を掬い上げてから言った。
「お兄様、大変だわ」
「何が?」
「先程の野蛮人との争いで怪我をしてしまったのね……、何て事」
そう言って梓は、暁の腕に出来た小さな切り傷に深いため息を漏らした。少しばかり血が滲んではいたものの、それは大した傷口には見えない。
「このくらい――痛くも痒くもないさ。すぐに塞がってしまう」
「駄目」
梓は目を伏せて、首を横に振った。ならないと言った具合に、梓はその腕を離す事はしないので暁も困り果てたようにため息を吐いた。
「梓……」
「お兄様」
言ってから梓は、先程の不良連中から奪い取ったものであろう両刃のナイフを取り出した。
「――梓、やめろ」
「いいえ」
兄が止めるのも無視し、梓はナイフの切っ先を鎖骨の辺りに滑らせていた。蒼白い月を思わせる肌の上に、鮮血が滲むのが分かった。
梓は浮かぶその赤を指して、言った。
「……飲んで」
「今は欲しくなかったんだけどな」
「駄目。発作が起きてからじゃ遅いの」
頑なに言い続ける梓に、暁も渋々ながらといった具合にそれに応じるのだった。梓の華奢とも言える細い肩を引き寄せながら、暁がその深くは無い傷口にそっと近づいた。
「あまり女の子の身体に傷が残るのは好ましくないな……特に、大事な妹の身体には」
「――けどそれもすぐに癒えて無くなってしまうのよ、私達……だって普通じゃないから」
その台詞にはどこかしら自嘲するみたいな響きが伴っていて、梓は笑いたくもないのに笑っているのだった。暁が諦めたように、梓の肌を裂いて流れる血液に唇を宛がった。
「っ……」
途端に梓の身体が強張ったがそれもほんの一瞬で、すぐに暁の事を受け入れたようであった。兄の体温と、鼓動と、そして皮膚を通して流れているのであろう自分と同じ種類の血の流れを感じながら――梓は深い身震いと陶酔にしばし酔い痴れた。
「……お兄様……」
「……」
「私達。これからもこうやって生きていくしかないのですね……普通には死ねないから」
梓の身体から離れると、暁は口元に付着した妹の血液を学ランの袖で拭った。
「……、そうだな。俺達と同じような人間がいるんならまた何か変わってくるのかもしれないけど」
「私達のような――人間、と呼べるのかしら。そういう存在を」
「さぁな……今ここで走り回っているような死者共とさして変わらないかもしれないが」
言って辺りを見渡せば、あちらこちらで沸き起こる悲鳴は未だ静まる事を知らない。惨劇の夜はまだまだ終わりそうにもないのであった。
吸血鬼って耽美的なイメージよりも
血を吸うおっちゃんっていうか
ヴァンパイアっていうかどうも
ドラキュラっていうイメージが強くて
そんなに美形って印象はなかったのですが
吸血鬼カーミラ読んだら印象ぐるっと一回転したね。
吸血ってエロイ、擬似セークスっぽい。
っていうか!?
皆様気付いたかしら。
この発作、同じ顔……このキーワード、
どこかで覚えはなくって?
……ん? おじさんと……シn……あああああ