Nightmare Crisis

10、闇に落ちるなかれ

●主なゾンビの生態(暫定版につき、不十分な要素有。また、個体によって情報との差異も見受けられる)

・基本的に移動は遅い。生前の身体能力が影響するのか、また身体の腐敗状況によっても活動パターンは大きく変わる。が、中には走る個体も存在している。
・生前の身体能力によってゾンビのステータスは変化する、と記載したが全てのゾンビに共通して筋力のみは生きた人間のそれを遙かに凌ぐ。掴まれると振り解くのは容易な事では無い為に、距離は常に取っておく事。
・彼らの攻撃の仕方は主に『噛み付く』、『引っ掻く』、『しがみつく』ものが多い。そうしてから我々生きた人間の肉を食らい、咀嚼するのである。
・ゾンビ達は永遠に飢えており、人肉を食らうのには何か理由があるとされているが現時点の研究段階では不明。
・同時に、彼らが食したものの排泄物も謎の一つとされている。時々ではあるが未消化のままの食物が吐瀉物となって、そのまま嘔吐する個も存在する。

・ゾンビの活動を止めるには脳味噌を破壊する事。すなわち、頭部への容赦ない攻撃である。それ以外に弾丸をいくら当てようとも、弾薬の無駄な消費にしかならないので控える事。
・ゾンビ達の腐敗は、彼らが活動を停止してから初めて開始される。なので、放っておけば腐蝕が進み動けなくなる、というのは大きな誤解。

・そして、最も重要なのはゾンビに噛まれた者もゾンビとなってしまうという事実である。噛まれるだけではなく、引っ掻かれてしまっても傷口からウイルスが伝染してしまうケースが多い。
・噛まれた場合、今のところ助かる確率はほぼゼロに等しいとされる。ゾンビに転化するまでの時間には個人差が見られるが、極力迅速な処置を心がけた方が良い……

――以下、文字がかすれており読み取り不可。資料は正式に国から発表する手筈でまとめられていたようだが、この僅か数日のうち交通・通信網への大被害、及び電気系統、多数炎上につき大きな遅れが発生している模様――






「汗が酷いわ」

 明歩が茉莉の頬にそっと手を添えた。

「……なぁ、真島」

 上原が思い詰めたような声を漏らした。

 今この礼拝堂にいるのは上原、緒川、明歩と根室……そして育子によって負傷させられた茉莉だった。持ち上げた明歩の視線に戸惑うよう、上原が視線を逸らせたが――意を決したように、彼は話し始めた。

「彼女は……連れて行けないよ……悪いんだけど」
「――茉莉を殺すの?」

 明歩の弱弱しげなその問いかけに、上原はすぐには答える事が出来なかった。簡単に答えを出せるような話でもない。上原は視線を右へ左へと、落ち着きが無いように何度も彷徨わせてから、それからようやくのように口を開いた。

「それは……しない」
「じゃあ……」
「彼女を置いていく。ここに」
「一人ぼっちで置き去りに?」

 ともすれば今にも泣き出しそうな程に、明歩の声は震えていた。残酷な決断であった、それはすごく――上原も重々承知している、勿論。どう言えばその葛藤が伝わるのか、それはきっと生半可な事ではない。冷酷な顔をすればいいのか、それともありのままの気持ちの表情を浮かべるのが良いのか。上原が言いあぐねていると、それまで黙っていた緒川が立ち上がった。

「俺達だって……死ぬわけにはいかないんだ」

 誰もその言葉を否定出来る筈も無かった。
 静まり返る室内(外は相変わらずの阿鼻叫喚のようであったが)に、茉莉の苦しげな息遣いだけが響き渡っていた。

「……只置いていくとは言わないよ」

 上原が付け足すように言い、それから自分のスマホに装着してあった携帯充電器を外した。

「?」
「つーても、気休めにしかならないけどさ」

 苦笑交じりに言い、今度は横たわったままの茉莉のスカートに手を伸ばした。誤解されないものか心配だったが、彼が何をやるのか皆一様に理解してくれたらしかった。茉莉のスカートのポケットから赤いデザインのスマホを取り出して、今度は抜いたその充電器を差し込んでやる。

「おい、いいのか」
「これくらいしか役立てる事が思い浮かばないんだ、むしろ足りないくらいだろ……」

 善意ではなくて罪悪感がそうさせただけかもしれないが、上原はそうする事で幾分か自分を正当化してやる事が出来た。本当に、ごく僅かばかり。

「……茉莉……」

 力無く呟いたかと思うと、明歩が茉莉の手をもう一度取った。茉莉はもはやぐったりと憔悴しきっていて、その声は届いていないのかもしれなかった。衰弱しきっているのが見て取れたが、手の施しようなど無いのもまた事実であった。

 やりきれない思いの拭い去れないままに、明歩がその手をきつく握り締める。

「茉莉。ごめん――ごめんね……本当にごめん。救えなくてごめんなさい」

 後半の方はほとんど泣き調子で、明歩が続けた。

「必ず助けに来るから。外の世界がどうなってるのか分からないけど、救助の人達に掛け合う事が出来たら絶対に戻るからね……だから……それまではどうか……」

 祈りのようなその言葉を聞きながら、緒川は背後をふと振り返った。純白の百合の花に囲まれて、たおやかな笑みを浮かべ手を合わせる聖母像がそこにはあった。

 外の状況とはまるで正反対の厳かなその神々しさも、今はまるで腹が立つだけなのであった。けれども罰当たりな言葉を吐ける程の元気もなくて、緒川は何となくうろ覚えで胸の前で十字を切った。

「――どうか……俺達を正しく導いて下さい……」

 出鱈目な祈りの詩句を捧げながら、緒川は頭を垂れるばかりだった。




そういえばこの前の前くらいの話しで
後藤っていうチョイ役のドキュンがいたけど、
中学時代の英会話教師が使っていた
英語辞書を読ませてもらった事があったのさ。
その時に例文で「Gotoは車を盗み挙句その人を殺しました」だの
「Gotoは包丁をつきつけました」だの
すげえ文章ばかりが載ってて
「うわぁ、ゴトーめっちゃ悪いやっちゃな!」と
寒くなってましたが多分あれ「強盗」なんでしょうね。
そういう事を思い出しながら
後藤というキャラが生まれました。
って、嘘を言うな嘘を。
全国の後藤さんごめんなさい。


Modoru Susumu
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