教師の目を逃れて、煙草を吹かすのに丁度いい場所を見つけたと思ったら――施設から少しばかり離れた無人の長屋が一軒。
物置部屋として使われていたのであろうこの離れにいるのは先程の不良その一・会津だった。それとその取り巻きがチラチラとはいたが、例の恐ろしいと噂される北山の姿は無かった。
「北山から聞いたんだけどよぉ」
そしてこの非常事態――彼らは逃げるでもなく、立てこもるでもなく、また別の行動を取っていた。
「この騒ぎの時にお前ら、霧の中でな〜んかしてたってね?」
チラ、と見下ろすとそこには縛られた男女が二人いる。
二人は今から自分達が何か、拷問めいたものにでもかけられるんであろう事を予想していたがさして怯えるでもなく無表情のままであった。
「南雲ちゃんよぉ。お前らなのか? このワケの分からん世界を作り出したのは」
「……」
「連中は何だ? おかしな薬でトリップしたのか?」
木刀を持った物騒な男子生徒はヒゲヅラでスキンヘッドだ。暁と梓は縛られた格好のままで、自分達を囲む連中を眺め続けていた。
「――こいつら喋れるのかよ? さっきからず〜〜〜っとこうじゃないっすか」
「……何ならこの女、マワしますか。ヤラれてるとこムービーに撮って。妹の貞操の危機とあっちゃあ、お兄ちゃんも黙っちゃいられないよね?」
「やめとけ、後藤……その女に手出ししたら北山がカチキレるぞ」
「何? 北山が惚れてる女なのか、こいつ?」
「正確にはその二人に、な」
煙草を吸っていた金髪オールバックの男が鉄パイプで二人を交互に指した。
「二人!? 一人男っすよ、リンダさん」
風邪でもないのにマスクをかけた茶髪のウルフカットが叫んだ。
「知るかよ。北山の好みなんだから、北山に言ってくれ」
リンダと呼ばれた男は実に面倒臭そうにその場に腰を降ろした。それから煙草の煙を吐き出して、短くなったそれを床へと押し付けた。
「北山が何でこいつらに固執すんのかは知らんが、手出しは出来ないっつーわけだ。お姫様みたいに扱ってやるよ、なぁ?」
会津がそれから面白げに爪先を伸ばして暁の背中を蹴った。
「手が駄目なら足ならいいんすかねぇ?」
「お兄様に汚い足で触れないで」
それまでだんまりを通していた梓の声を聞いたのはそれが初めてであったが――言った内容が内容なだけに、会津もムっとするのを隠し切れない。
「あぁ? 何だこの女」
「よせ、会津。おめーはすぐプツンすんだからよ、ちょっとは冷静さってもんを……」
「今なんつったってんだよぉこのアマ」
会津が梓の顎を掴んで持ち上げると、今度は暁が黙っていなくなった。
「梓に気安く近寄るんじゃない、この卑賎」
「ンだこらっ」
卑賎、の意味を理解していたのかどうかは分からないが言い方とかそういうものに腹が立っていたのだろう。会津が行動に出ようとした時には梓の両手が既に自由になっていて、オマケに会津は股間蹴りを食らわされてその場に沈められていた。
どうして二人が頑丈な縄を解いていたのか、一体どうやって――が、それに構っていると次に取るべき行動が遅れてしまう。
「……てめぇ!」
次いでマスクの茶髪ウルフが木刀を振り回したが、暁の腕から何か火花のようなものが弾け飛ぶのが見えていた。スタンガンだろうと認識した時は既に、肺の辺りにそれが押し当てられていて、ウルフカットは「ぐっ」と呻いた。
次いで膝蹴りをもらって、梓が次の瞬間には木刀を拾い上げていた。息の合ったコンビネーションで、互いに言葉を交わさずとも何を求めているのかが分かるかのような動き方。こちらが何かをするまでに、残りはあっという間にリンダ一人となっていた。
「なっ……お前らっ!」
「北山君が戻ってきたら伝えておいてくれよ、俺達は絶対にアンタのものにはなりたくないってね――死んでもごめんだ」
暁が言い放ってから、背後で倒れた男子生徒に必要以上にスタンガンを押し当てている梓に向かって言った。
「梓……もう行くぞ」
「――」
そいつはとっくに気を失っているが、梓は痙攣によってか魚のように跳ねるそいつの反応が余程楽しかったらしい。しつこくスタンガンを押し当てて、顔は決して笑ってはいないがひどく楽しんでいるようだった。
「……梓!」
兄の声だけは聞き分けるらしく、梓がびくんと肩をこわばらせた。
「さっさと行こう。ほら」
「え、ええ……そうでしたわね。いけない、私ったら何て野蛮なの……」
口ではそう言っていたが彼女の口元には堪えきれないような笑みが浮かんでいるのを、尻餅をついたままのリンダは見たのであった。
ハッキリ言ってちょっとギャグっぽいよねw
あずにゃん、この頃から
サドいですね。