05-1.禁じられた恋
一方で、囚われの姫君ことナンシーとまりあの女子二人組の方はと言えば、だ。
やがて明々と燃え始めたその炎を見つけてか、真っ先に飛び込んできたのは――ドタドタとそこら中に響き渡る足音と共に、例の巨漢がウーウーと喚き散らしながら飛び込んできた。
「……出たなあ! このデブ」
扉が乱暴に開くなりまりあがファイティングポーズを取った。
「ちょ、ちょっとまりあちゃん落ち着いて……」
ナンシーが止めるよりもまずまりあは怒りに身を任せて突っ込んでゆくのであった。
「オラァ! こんな可愛い乙女をキッタナイ部屋に閉じ込めるなんてどお〜〜ゆう神経してんのよう! ぶっ殺したらぁ!」
叫びざま殴りかかろうとするまりあだったがすんなりとそれを避けて巨漢のトゥイードルダムはどすどすと炎の出先に向かって行くのだった。
「無視してんじゃないわよ、このぉ!」
「まりあちゃん、いいから早く……」
扉に向かってまりあを引っ張ろうとするが、ナンシーはふと気がついた。トゥイードルダムが、炎を消しているのではなく天井からぶら下がっていたニワトリ達をその炎から庇うようにそれを抱きかかえていた。
やがて火の手を消化し終えたのかトゥイードルダムはニワトリ達が無事なのを確認するとほっと安堵しているように見えた。
「……」
「オラーッ、シカトすんのかー! 耳クソつまってんじゃないのデブッ。それとも耳まで脂肪だらけかこのウスラボケ!」
「ウウ……」
やがてニワトリを抱えたままのトゥイードルダムがゆっくりと振り返った。まりあがそれで構えを取り直しかかって来いと言わんばかりに相手を睨みつけたが、トゥイードルダムは襲ってくる気配すらない。
何の殺気も見当たらないためか、ナンシーは逃げ出すのを忘れ思わず立ちすくんでしまった。
「え……?」
それどころか、トゥイードルダムはこちらへ向かって何かを差し出していた。
「何?」
「ウ……」
よくよく見れば、どうやら鍵の束のようである。
「……何? くれるの?」
ナンシーが恐る恐る問いただすと、トゥイードルダムはゆっくりと頷いた。
「ウ……」
「……罠よ。絶対にこれ罠よ、透子。このデブ何か企んでるのよ! 近づいちゃ駄目、耳を貸すのも駄目っ!」
まりあの言葉を聞き流すようにナンシーはそっと一歩踏み出した。
「……透子!」
「大丈夫よ」
ナンシーは恐々と、その手を伸ばしトゥイードルダムから差し出された鍵を受け取った。
「ありがとう。……これ、この屋敷の鍵なのね?」
「ウ、……ウ」
その鍵の束を受け取りながらナンシーが何度か頷いた。トゥイードルダムはまだ何か言いたそうにしている。その上手いこと言葉を発せないのであろう口元をもごもごとさせていた。
「? どうしたの?」
「ウ……」
ナンシーが尋ねると、トゥイードルダムがポケットからごそごそと何かを取り出した。
「これは……」
「……」
その手に握られていたのは、可愛らしい女の子の人形だった。目のぱちくりとした、可愛いドレスを着たその人形は手作りのものであろう。誰が作ったのだろうか? 受け取りながらナンシーはトゥイードルダムを見つめた。
「これもくれるの?」
「ウ、」
トゥイードルダムがこくこくと頷いた。
「……けど受け取れないわ。貴方の大事なものなんじゃないの?」
ナンシーがそれを返そうとするがトゥイードルダムは首を振ってそれを拒否した。
「いいの? 本当に……」
「ウウ」
そこでトゥイードルダムが大きく頷くのでナンシーも諦めたようにそれをポケットに入れた。
「ありがとう。大切にするわね」
「ウウウ」
それからトゥイードルダムは逃げ出そうとする彼女達を止める気配も無かった。
「行くわよ、まりあちゃん」
「う、うん……」
二人は開かれたままの扉から、その部屋を後にするのだった。
子どもとおんなじなんだろうなぁ
このでぶちゃんは。純粋。