終盤戦


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32-2.ショット・オブ・ラブ



 言うなりまりあは立ち上がりつかつかとこちらへ歩み寄ってくる。一気に距離を詰められたかと思うと、尚も叫び散らすのであった。

「おそい! おそいよ馬鹿! 何でもっと早く来てくれないのよ!」

 うっわこいつ面倒くせぇ、とミツヒロが露骨に眉根を潜める。そっぽを向くまりあに、ミツヒロがあっと思いついたように声を出した。

「――あ、そうだ。さっきの何?」
「……え?」
「何か言いかけたじゃん。俺に言いたいことあるとか何たらクソたら」

 それでまりあが一瞬ぎくっとしたような表情を見せ、慌てたがすぐに首を横に振った。

「そんな事言ったっけー?」
「は?」
「覚えてないしーっ」
「……出たよ」

 ミツヒロが舌打ちまじりに視線をどけるとまりあがまたくるっと振り返った。

「あ、舌打ちしたわね! 私だって別にさあ……」
「なあ、お前本当危なっかしいんだけど」

 遮るように、少し強めの口調で言うのでまりあもそこで踏みとどまってしまった。それからミツヒロがふうっとため息を吐きつつ言った。

「心配かけすぎじゃん。色々と」
「……別にほっといてくれても良かったんだけど?」

 まだ素直にならないまりあにミツヒロがもう一つオマケにため息をつきながら前髪をかき上げる。

「ほっとけるかよ、アホか」
「何でそうやって気にかけてくれんの?」

 すかさずまりあが呟いた。上目遣いに、潤んだ両目で。というか一度告白しているのにこの扱いは一体何だというのだろう。もう一度告白させようという、よく分からない女心か? そういうの本当面倒くさいだけだ――とは思いつつミツヒロは頬を掻いた。

「……俺さぁ妹いるんだよね」
「は?」
「何かお前と似てるし、まぁやっぱほっとけないわ」
「……何ソレ」

 それで納得するかと思いきや、まりあは更に食い下がって質問を浴びせてきた。

「妹いくつ?」
「え??」
「だから妹いくつだって? 何歳なの」

 そして、まりあが質問攻めにする。たじたじと、答えに濁るミツヒロを見てまりあは益々迫るような調子を出した。

「早く答えてよ。いくつ!?」
「……しょ、小二……」

 ぼそぼそと答えるミツヒロに、まりあは問答無用でキレのある蹴りを食らわせた。内股を蹴られてミツヒロは呻いてその場に崩れ落ちた。内股、すなわちインローという部分だが女性の力でも、当たり所が悪いとこれが結構痛い。

「ってえ!……ンだよ何で蹴るんだよ! この暴力女ッ」
「さいてー、小学校二年とか私もう中学生なんですけど!?」

 まこと、女心というものはいつの世も測り知れない。それに加えて複雑な年頃のせいもあるのだろう……ひりひりと痛む箇所を押さえながらミツヒロが視線をやると、隊員のものであろう情けない声が聞こえた。


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