32-1.ショット・オブ・ラブ
屋敷内にも本格的に駆除隊が駆け込み始めた。
ふざけた隊員はゾンビを面白半分におちょくり、逆に噛まれていたりもした。本当に哀れなもので、仲間達から早速ゴミのように殺されるのであった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! うそ、今のウソ! 噛まれてないって! タンマ……」
「せー、の! せっ!!」
仲間達の掛け声と共に一斉に四方八方から鈍器のようなもので撲殺される隊員ときたら、もうかけてやれる言葉もない。無残さに声も出なくなりそうだった。白い防護服を纏った隊員の身体から血飛沫が上がるのが見える。
「頭撃ち抜いて一発でラクにさせたりゃいいのに」
その光景を見つめながら、壁によしかかったままのミツヒロが言う。
「弾薬が勿体無いのでしょう。気持ちは分かりますよ」
どこか無機質な声で被せるように呟くのはヒロシである。こちらにまで聞こえていた「おかあさーん」とか「やめてくれえ」なんて叫び声も、次第に言葉ではなく単なる絶叫に切り替わっていくのに時間はかからなかった。悪い冗談のような光景も、今ではすんなりと受け入れられるのだから何だか皮肉でもあった。
今も尚鈍器であちらこちらからバカスカ殴られているのであろう隊員を見つめながら、ミツヒロがはんっと笑った。
「……アンタさあ、俺と違って、なんていうか天性の才能あるよ。んー……なんての? 俺って結構繊細だし向いてないと思うんだよな、この世界。いちいち動揺しちゃうし」
「……」
それは何の冗談か、と聞き返そうとしたがやめておいた。ヒロシが無言で見つめ返しているとミツヒロは更に饒舌になって見せ言うのだった。
「だからさ、世界が元通りになるよりこういう殺伐とした場所で生き抜く方がいいんじゃねーのかなー、なんて」
「一応、褒め言葉として受け取っておきます。有難うございます」
機械的に答えて、ヒロシは一つため息をついた。
「いやマジだよ、俺が褒めるのなんて珍しいんだからな。もっと嬉しがれや、この」
「……。それよりも、妹を宜しく頼みます。――僕は少しだけ動く」
「あ?」
そう言ってこめかみの辺りを押さえながらヒロシはどこかおぼつかない足取りで歩き始めた。ヒロシを見届けてから、ミツヒロは横で蹲ったまま、依然どこか沈んだ調子でいるまりあに目をやった。
「……。あー」
何と声かけしていいのやら、正直よく分からない。頭を掻きながらとりあえず当たり障りのない言葉から始めようかと思った。
「おい」
「おそい!!」
が、それよりもまず返ってきたのは怒声である。