終盤戦


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31-1.いともたやすく行われるえげつない行為



 ナンシーの悲鳴は、重なり合うライフルの銃撃音によってまるごとかき消されてしまったようだった。

 耳栓でもないと鼓膜が痛むんじゃないかと思えるほどの銃声の最中にいるはずなのに、何故かナンシーには無音のように感じていた。あまりのうるささに、鼓膜がおかしくなったんじゃないかと思ったがそうではなかった。

「……」

 床に倒れこむトゥイードルダムの身体は、はじめのうちは小刻みな痙攣を繰り返していたが次第にそれもなくなった。微動だにしなくなったその巨体に、ナンシーはしばらく声そのものを奪われてしまったように何も言えなくなっていた。

「死んだか?」

 ライフルを下げたうちの一人がそう言ったのを聞いた。ここでやっと自分に聴覚というか、意識そのものが戻ってきた事に気がついた。ナンシーはまばたきさえするのを忘れ返り血を浴びたまま、転がるトゥイードルダムを見つめた。

「多分な」
「いくらバケモンといえど、物理的に破壊すればもう活動できないだろう」

 とめどない血液の臭いを掻き消すくらいに、今度は強い火薬の匂いがツンと鼻についた。

「……あ……」

 変形したトゥイードルダムの頭部から、どろっと灰色のものと赤黒い血液とがこぼれ始めるのを見てナンシーが思わず声を漏らした。

「こんな――こんなの……」

 彼はもう息をしてはいない。見て分かった。無意識のうち手を伸ばそうとする自分に、そう言い聞かせていた。茫然としながら、ナンシーはまるで自分自身が撃たれたような錯覚を覚えていた。

「手間かけさせやがって、っと」

 一人が前に出てきたかと思うと、トゥイードルダムの遺体めがけて足を乗せた。力をこめるのと同時に足でその遺体をひっくり返そうとする。

 巨体なだけあってかやや手間取りながらもその身体がごろりと仰向けにされる。当然のことだが、虚ろに開いたトゥイードルダムの瞳にはもはや生気など感じられなかった。

「っかー、さすがにカービン弾はやりすぎたかなぁ」

 笑いながら、男はライフルを既に息の通っていないトゥイードルダムに突きつけた。

「うはっ、エゲツねーなあ。UMA現るって触れ込みで東スポにでも売るか、おい?」

 周囲に飛び散った脳やら骨やらの破片を見て、一人が流石にやられてしまったらしい。微妙な挙手のポーズを決めた後、その場でゲェゲェと嘔吐し始めた。その様子を見てげらげらと笑う姿に、ナンシーはようやく自分の両目から涙が出ている事実を知った。

「……こんな」

 重なる笑い声の中で、ナンシーはもう一度それだけを云った。

「それにしても醜いなあ、こいつ。何てバケモンだ?」
「まさか人間ってこたあねえよな、人間だったら俺ら犯罪者じゃん」

 ナンシーは彼からもらった、人形を見つめた。それは床の上に投げ出されていて、彼自身によって作られた血の水溜りの中に沈んでいるのだった。血液の染みこんだ人形は、今も尚愛らしい笑顔を浮かべたままだ。

――……

 先の犠牲者達が落としたものだろうナイフが、ナンシーの目についた。

 銀色で、デザインだけならばお洒落なものだったが果たして威力はどんなものか。ナンシーはそんな事を頭の隅で考えながらも、ただ夢中でそれを手にした。




分かりやすい悪役どもだな。



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