終盤戦


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29-2.こんな世界に誰がした



 あっ、と声に出す間もなくナンシーはそのままドンッと男の手で乱暴に突き飛ばされた。

「きゃあ!?」

 そのままナンシーは壁に叩きつけられた。

「……痛っ……」

 くぐもった声を漏らしながらナンシーは目の前を見た。

「ウー……」

 トゥイードルダムが息を荒げながら、自分を見下ろしている。血走った目で、殺気だったように。

「な……」

 驚いてナンシーが声をかけようとするとトゥイードルダムはその手を振り上げた。慌ててナンシーが横手にかわす。

――どうして!? 

 その思いは言葉にはならなかった。まさか、自分を敵だとみなしたというのだろうか。或いは、パニックのあまり錯乱をして敵意を持った者とそうでない者との区別がつかなくなった、とでも言うのだろうか。

 信じられずに、ナンシーが目を丸くした。

「やめて!……ねえ、やめてよ! 私は貴方をイジメに来たわけでも殺しに来たわけでもないのよ」

 必死に説得を試みるが、トゥイードルダムはもうすっかり興奮状態に陥っているのかフウフウと肩で呼吸しながら尚も殺気にまみれた視線を向けてくる。

 自分の叫びは届かない、のだろうか――ナンシーがもう一度何か口を開こうとする。

「いかん! あの子が危ないぞ、撃て!」

 一人のライフルが命令に従い、火を噴いた。撃ったその弾丸はトゥイードルダムの肩口あたりに被弾したらしい、トゥイードルダムがのけぞるのが分かった。

 そしてその瞬間、本当に一瞬だけ。

 トゥイードルダムが見せた悲しげな瞳にナンシーはその真意を見出した。

「……そんな」

 気付いたときにはナンシーはそれだけ呟き、手を伸ばそうとした。

「撃て! あの化け物を仕留めろ!」

 ナンシーの、その一瞬の密やかな願いに応える様にトゥイードルダムが僅かに指先を動かしたがそれは意味を成さなかったのかもしれない。

 その指先が届くよりも早く、ライフルの刻む弾丸の雨がトゥイードルダムへと突き刺さった。全てがスローに見えた。その先、何が起こるか予測はつくのに身体はまったく動けないでいる。

 ナンシーは、何かを叫びたかったがライフルの音でまるまるかき消されたみたいだった。

 トゥイードルダムの身体が、奇妙に踊った。

 そして、ライフルの反響が消えないうちにどっと膝から崩れ落ちていくのをナンシーは目の前で見たのだった。


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