15-1.平気で人を殺す人たち
阿鼻叫喚の地獄絵図。
地上が、死者達の練り歩く地獄だとしたらここは生きた者たちによるもう一つの地獄か――、
「あたしの肉まんよッ! あんたらみたいな田舎モンに渡してなるもんですか!」
人々の争いは益々醜く、そして残虐なものへとなってゆく。このままでは、あの女……そう、ママと呼ばれるこの肉屋の女主人の思惑通りじゃあないか。
ナンシーはちっ、と舌打ちし一度車椅子を奪う作戦を止めにする。腕にしがみついたミイラ親父をまりあに手伝ってもらって引き剥がすことに成功すると、ナンシーは腕に残るその厭らしい液体を必死で拭った。
「……サイテーの気分ね」
嫌悪感丸出しの表情でナンシーが言い放つ。
「ねえ透子、どうすんの!? この意味不明な肉まん争いっ!」
「黙って指咥えて見てるわけにはいかないでしょう……」
「つったってこの乱闘騒ぎ、どうやって止めるのよ!」
見渡せば、すぐそこで殺し合い。
殺し、殺され、互いが互いを屠り合う。そこにはきっと一片の感情すら持ち合わせていない。殺す者、殺される者、勿論屋敷内のトラップに引っかかって命を落とす者だっているようだが。
「ウオオオオオ! じっちゃんの為なんだ、許せぇえ〜〜!」
「ヒイイッ!?」
頭に懐中電灯を二本、まるで鬼の角に見立てたように飾った軍服の青年が叫ぶ。日本刀を振り下ろした青年は、怯え、逃げ出そうとする女性の背中を力任せに斬りつけた。裂けた服の繊維と、血飛沫とがぶわっと舞い上がった。
返り血を浴びながら青年は振り返り、今度は女子高生と思しき少女へと斬りかかろうとしていた。
「……何てこと……っ」
凄惨なその場面にナンシーが思わず悲痛な声を上げるが、状況は変わらない。へたり込んでいた女子高生は、反撃に出たのか一撃をかわすと青年に飛び掛る。
「ぎゃあああああ!?」
そのまま何をするかと思えば、くんずほぐれつを繰り返した後にその長く伸ばした爪で青年の両目を潰しにかかっていた。
「うぷっ……」
凄惨な光景に思わずまりあが口元を押さえ、込み上げそうになるものを必死に堪えていた。いくら戦いを生業にしている団体に身を置いているとは言えども、やはり限度というものはあるんであろう。そこはまだ十代の乙女なのだから、全てに耐えうるというわけではないらしい。
「見ていられないわ! 止めないと……っ」
「けど透子、罠があるんだよ!? 下手に歩いたりしたら……ッ」
それは勿論、重々承知している。というか、この光景を見れば嫌でも刷り込まれてしまう――まりあが必死で止めようとするがナンシーは唇を噛み締め、素直に引き下がる様子も見せない。
ナンシーはもう一度ばかりすぐ傍で繰り広げられている血みどろの交戦を見つめた。
「こんなの……、」
無意識のうち、呟いていた。
――こんなのユウが救いたかった世界の姿じゃないわ
そう思うと、悔しくてやりきれなくなりそうだった。身も心も打ちひしがれそうになるその思いに、ナンシーは愕然としたようにふらふらと足元から崩れ落ちそうになった。
違う、と小さく叫びナンシーが一歩踏み出しかけた。
「透子!」
まりあの声ではっとなった。目の前にいたのは……全身ぐずぐずに焼け爛れた、皮膚の剥がれ落ちた男。
「っ……」
その姿に圧倒され言葉を失ったが、何よりもその目を引いたのは――その手に握られた巨大なナタだ。
恐らく先ほどトラップによって全身を溶かされた男の成れの果てであろうことは想像がついた。溶け落ちた箇所からは筋肉の組織がところどころ剥き出しになっていたし、そのほとんど失われた皮膚を見るに生きているのが不思議なほどだった。
私がゾンビ映画が死ぬほど好きなように
私の友人はサメ映画が死ぬほど好きです。
世の中いろんなフェチがいるね。