終盤戦


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15-2.平気で人を殺す人たち



 もう痛みさえ感じていないのか、正気を失っているであろう男は奇声を上げながらどこからか入手したナタを振り上げる。

「くっ……」

 が、重たい身の丈ほどもあるナタを使いこなせているのかと言えば微妙だろう。ナンシーは落ち着いて横手にかわすと相手の姿勢を崩すのには持って来いの内股を狙った。狙ったとおりによろめいた男めがけてナンシーは片手のブーツを鞭のように操った。

 男の顔面、主に顎を狙うと男はナタから手を放し、後ろへとぐらついた。

「――ねえ! やめましょう、こんな事! 馬鹿げてるわ、おかしいと思わない!? 今はそんな場合じゃあないって貴方だって気づいている筈だわ……っ」
「透子! そいつ、もうとっくにイカれてんのよ! 相手にしちゃダメっ」

 まりあの言う通りなのは分かっている、それでも――ナンシーはもう一度呼びかけた。

「お願いよ、こんな事やってたって先に進めるわけないじゃない!? これじゃあ、いつまでたっても世界はこのまんまだわ! ずっとずっと変われるはずがないじゃない……ッ」

 男はナタの代わりに、壁に突き刺さっていたボウガンの矢を引っこ抜いた。矢の先を見つめると、ニターと笑った(ように見えた)。

 男がもう一度、咆哮を上げる。地の底から響き渡るようなゾッとする唸り声と共に。もう、すっかり人ではなくなったのだ。だから笑っていられる、こんな風に――ナンシーは、その両目に悲しみと絶望との二つの感情が入り混じった色を浮かべて目を閉じた。

 まりあがすぐ傍で名前を呼んだ。彼女の目には、きっとナンシーがろくな構えもしないように映っていたのだろう。

――ああ、これは……

 武器を持った相手への、対処法。ぜーんぶ習った。この身が覚えている。ルーシーがしっかりと叩き込んでくれたから――だけどひどく悲しくて、嬉しがっている余裕はなかった。ナンシーは男の腕を払い落とすと、それで全ては片付いた。男はもう生命活動そのものの限界が近かったのだろう。そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。

「……馬鹿よ」

 ナタを拾い上げながら、ナンシーは蔑むように呟いた。そうだ、このまま頭を潰さないと結局また起き上がってくるのだった。

 だから早く……潰さなくては。

「透子?」
「本当に――馬鹿ね」

 蔑むようにそう呟くが、事態が収まるはずもなかった。




透子ちゃんは心根の優しい子なので
とても心を痛めているのだろうなーと思う



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