14-2.正義で世界は救えない
ミツヒロが寄りかかっていた壁から背中を起こすと、煙草を吸いながら続けた。
「虚勢を張るのはいいんだけどよ、あんたどっからどう見ても素人じゃん。まともな武器もなしにどうすんの? 瞬殺されるぞ〜」
にやにやと興味深そうに尋ねてくるミツヒロの視線を振り切るように創介が言った。
「……そ、それでも行く」
「ふーん、あっそ。じゃ、頑張って」
それでミツヒロがまた煙草を吸った。
「待てよ、創介。だったら僕も行く」
セラが慌てたようにすたすたと駆け寄ってきた。
「お前一人じゃ流石に無理だよ」
いつものごとくぶっきらぼうな言い草で、セラが言った。それからミミューも一歩足を踏み出した。
「僕も行くよ、創介くん。ナンシーちゃんの事なら彼らに任せてもいいみたいだし、彼女に限ってヘマをするとも思えないし……」
それでナンシーがスパイだった事実を思い出したが、今となっては些細な問題であった。
「それに民衆を一人でも多く助けることが神父の役目だから、ね」
そう言って少し力なく笑うミミューに、創介は何故だか先程ルーシーと会話していた彼の姿を思い浮かべた。
「う、じゃ、じゃあ俺たちもそっちにつこうかな。俺はもうこいつらと関わりたくないし」
凛太郎と一真も名乗りを上げると、続いて雛木も面倒くさそうながらにこちらへとやってきた。
「有沢くんはどーすんのさ。彼女を救う王子様にならなくていいわけー?」
嫌味っぽく尋ねる雛木を遮って、ルーシーがマントを翻しながら間に入ってくる。
「はいはいはい。仲良くやりましょう? ね?……こほん、じゃあ僕たちは女性二名を救い出しますので。君達には暴徒の制圧をしてもらおうかな。そうしてもらった方が僕達も進みやすいですからね〜」
異論は無さそうである。一同がそれで納得した矢先に、地べたで寝転がっていたトゥイードルディーがムクッと顔を上げた。
「……無理だよ」
「あ?」
一同の視線がそちらへと注がれた。
「怒った鬼母(ママ)は手がつけられないんだ。お前らは知らないんだよ、ママの怖さを。歯向かえば全身細切れにされちゃうんだぞ、もう駄目だ。もうおしまいだ」
トゥイードルディーが泣き叫びながら床にどんどんと頭を叩き付けた。
「……全員死ぬ……」
不吉なことを言い残しながらトゥイードルディーはその場に芋虫のように蹲った。
鬼母(ママ)!!
一瞬範馬勇次郎のような母ちゃんが
思い浮かんでしまったじゃねえか。
ホラー映画の主人公が範馬勇次郎だったら
ちっとも怖くなくなると思うんだよな。
貞子もカヤ子もワンパンでKOしそうだけど、
女だから消え失せろッッッって言って
相手しないのかな。
つーかこんな家に住んでてママたちが
トラップに引っかかることはないのだろうか。