終盤戦


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14-1.正義で世界は救えない



「何が始まるってんだ、一体!?」

 創介が叫ぶと、ヒロシがいやに冷静に立ち上がった。

「今聞いた通りでしょう。ここは間もなく、阿鼻叫喚の修羅場となる。人間同士の殺し合いが始まります、巻き添えを食らわないように気をつけて進みましょう……一年前にも似たような光景を見ましたが、やれやれ……」

 呆れたように言いながらヒロシは眼鏡のフレームを持ち上げた。創介が立ち上がりざま、ヒロシの腕を引いた。

「い、いや……殺し合い、って。つまり生きた人間同士が、って事だよな?」
「ええ。そうです。その隙間をかいくぐって進むより他ありませんね」

 踵を返しながら言うヒロシの背中に、更に創介が食いついた。

「そうですけど、って……! つまり関係のない生存者達なんだろ!? 助けなくていいのかよ、単なる民間人だぜ」
「悪いですがそんな暇はありませんよ。――僕の目的は妹の救出だけです」

 それだけ告げて足を進めようとするヒロシの腕を、創介が強く掴んでこちらを振り向かせる。自然と唇がわなわなと震えだすのが分かった。

「……一年前の英雄が聞いて呆れるなぁ、何だよその言い様!? ゾンビでもない、普通の人間が、生き残ってこれから世界を建て直していかなくちゃいけない人間が、わけのわからん理由で殺し合ってんだぞ!?――それを見捨てろってのか」

 憤る創介とは裏腹に、ヒロシは心底鬱陶しげに肩を竦めたのであった。

「関係ありませんよ、僕には。……冷酷だと思われるかもしれませんが、人に構っていられる余裕なんてどこにも無いんですよこの状況では。あと、英雄英雄って僕は別に望んでそんなものになったわけじゃありませんから」

 彼の言いたいことも一理あるのはよく分かる。今は一刻の猶予も争えない、そんな事は十分知っていたが――。

「関係ないだあ!? お前、何様だよ! 殺し合ってる中に子どもがいるかもしれないんだぞ!」
「……既に正気を失った連中です、相手にするだけ時間の無駄なんですよ」
「――こんの分からず屋眼鏡ッ!」

 カチンときてしまい、創介が手を上げた。ヒロシのほっぺたにパチーンと平手打ちが入った。頬を押さえながらヒロシが創介を見つめ返した。

「ばーか、意地っ張りのうんこったれのカッコつけ! マジうんこやろーだぜお前はよぉ!」
「……」
 
 まだ何やら言い足りない気分だったが創介は一度深呼吸してから、くるっと背を向けた。

「だったら俺一人でも行く、もうこれ以上メチャクチャになんのは嫌だ」
「アホですか、貴方は?」

 頬を押さえながらヒロシがその背中に向かって問いかける。一瞬創介の肩がぴくんと反応したが、やがて拳をしっかりと握り締めると言った。

「……アホでいい! これ以上、人間が減るのは嫌だ。救える可能性があるんなら助ける方がいいに決まってる」
「――……」

 ヒロシはそんな創介の顔を、そう、一年前に出会った、本当に『英雄』だと呼ばれるべき人物の姿と重ね合わせていた。

――……

 目を細めながら、ヒロシはしばしの回想に浸りかけたがそんな時間などなかったとすぐに現実に引き戻される。

「おにーさん」

 どこか舐めきった口調で呼び止められ創介が振り返った。




ユウも創介も、
特別何かが出来るわけじゃあないのですが
影響力のある人物というか周りの人たちの考え方を
揺さぶる何かがあるんですね。
そういう子が主役の方が断然書き易いのよねえ。
創介なんかは明るいし
正しいと思ったら絶対に捻じ曲げないし
こいつめちゃくちゃいい奴だよね。
多少尻が軽いだけで。



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