13-1.人間狩りの王
「イヤッ! こいつやっぱ傍で見るとキモチワルーーイ!」
まりあの悲痛な絶叫が屋敷中に轟いた。
「……私の役目はもっと気持ち悪いわよッ! つべこべ言ってないで早くして!」
今度は得体の知れない、蠅まみれのそいつの首をシッカリとホールドしているナンシーの絶叫だった。
「えっとえっと……んもう、どうなってんのよこの鎖っ。私の分野じゃないわ、こういうのはフジナミくんの役割よぉ〜〜」
「喚いている暇があるなら早く解いてってば!」
つい口調もこんな風に荒っぽくなってしまうのだが、早くして欲しいのは事実なのだった。
突然、それまで文字通り死んだように眠りこけていた筈のそいつ……が、突然カっと目を見開いた……白く濁った目玉がぎょろりと突然のように覚醒する。
「い゛っ、」
まりあがくぐもった声を漏らしている間にも、ミイラのようなそいつは口を開いてナンシーの腕に齧りついた。
「っきゃああああぁあ!?」
ナンシーが甲高い悲鳴を上げる。
「ちょっ、何すんのよこの馬鹿ぁ!」
まりあが引き剥がそうとするが、幸い……と言っていいのか分からないがそいつに歯が生えていない事に気が付いた。
フニャフニャの口元でミイラ親父はナンシーの腕に噛み付いている。というかこれではもはや只の変態親父にしか見えないのだが……。
「まりあちゃん、いいから早く……」
ナンシーが全てを言い切る前に、ガチャンと何かが割れる音がした。二人(いや三人か? 厳密に言えば)の動きがそこでぴたりと止まる。
「……!?」
「何?」
やけに騒がしくなり始めた屋敷内に、二人が同時に振り返ると見覚えのない人物が何人かそこに立っている。これも屋敷の住人だろうかと疑うほどに、彼らの顔には生気がなくそしてどれも皆血走った目をしている。
老若男女、多種多様。ぞろぞろと唐突に上がりこんできたその団体に共通点はなく、益々異様であった。
「誰よあれ?」
まりあが眉根を潜めながらその疑問を口にするよりまず、先頭にいた若い男がゴルフクラブ片手に突進してきた。
口元からはヨダレをダバダバと垂らし、両目の焦点は合っていない。やや内股気味の青年はゴルフクラブを両手で握り締めるとそのまま走り出した。向かう先は勿論こちらだろう。
「いいいいいううぅううっ〜〜〜〜〜ぁあぅうあッ!」
二人が構えを取ろうとするよりまず、屋敷の中のトラップが発動したらしい。青年が踏み込んだ矢先、壁から何かが弧を描きほとばしった。
壁から飛び出したのは何かの液体のようであり、それが単なる水でないことはナンシー達も十分理解がいった。
そしてその思惑通りに、液体を浴びた男が顔を抑えて呻き始めた。ゴルフクラブがその場に放り出された。
「グ……ガ……あぐぅあああああ!!」
男は苦しげな声を上げながら、その場にのたうち回っている。シュウシュウと煙を上げ、男の体がどろどろに焼け爛れていく……。
「これってまさか――酸!? 何てモン仕込んでるのよ、あのババァ」
まりあが叫んで舌打ちをするが、他の連中たちは先の惨劇など構いもしないといった具合だ。ぞろぞろと土足で屋敷へと踏み込んでいる。
「というかあいつらは一体何なのかしら。生きている人間だとは思うけど」
ナンシーが肩を竦めていると、ふと横手の部屋からも侵入者が現れたらしい。