12-3.ヘリコプター・ボーイ
見れば、ルーシーがにこにこと笑いながらトゥイードルディーの首根っこを掴んで軽々と持ち上げている。その手つきといったら何だかカーテンや壁紙を引っかいていた飼い猫でも持ち上げたような構図に似ていた。
「おいおい、調子に乗るなよ〜〜〜〜〜、このジャリが。どうやらお前がこの鎧どもを統率しているようですね。……んー、ここで僕は推理しますよ。この鎧に入っていた狂人どもはさしずめこの家に住んでいるキチガイ一家に拉致監禁された被害者たちの成れの果て……」
それは推理、と呼ぶにはとてもじゃないが拙いものでちょっと考えれば創介やミツヒロの小さな脳みそでも憶測できそうな事ではあるのだが、まあとにかく。
創介は起き上がると手の平を血まみれの押さえて苦しみだした。
「……てぇええ! いてーよ! 信じられっか、あいつ刺した後更に突き刺してきたぞ!? ひーひー……」
それが一体どれほどの効果がもたらされるのか知らないが創介は涙目のまま、手の平の傷口に向かって息を吹きかけ始めた。そうすることで痛みを緩和したいのかもしれないが、転んで出来た擦り傷とはワケが違うだろうに。
「……知ってる。見てたよ。こいつ押さえ込むのに精一杯で助けに入れなかったけど」
言いながらセラは鎧のヤツをヒロシに任せて、創介の方へとやってきた。
「見せて。……そんな事してないでさっさと止血しなくちゃ」
「う、うう……だってこれパックリ割れてるしさぁ。正直よく見るのも触るのも怖いんよぉ、リームーすぎる」
子どもか、とセラに一蹴されてしまった。セラは凛太郎の持っていたバックパックから清潔な白無地のハンカチと水を受け取る。
「とりあえず簡単に処置だけしておくから」
「大丈夫? 敗血症とかにならない?」
「……知ってる? 傷口って消毒するよりも清潔な水で綺麗に洗い流すほうがいいんだって」
そうなの、と創介が目を丸くした。
「そう。僕の経験上ね」
そういえば、世界がこんなになった初めての日にもセラはこうやって自分の治療をしてくれなかったっけ……あれからもう何日も経っている気がするのだけど。
思い出に浸るのはまだ早いかも、と思いつつも創介が目を丸くしていたがそうしている間にもどんどんと時間は進行して行く――奇声がしたかと思い視線を上げてみると、トゥイードルディーがルーシー目掛けてそのナイフを振り回していた。
「おっとっと」
体格差とはまた哀れなもので、トゥイードルディーがその状態でいくら小ぶりのナイフを振り回そうが届かない届かない。
ルーシーも楽しそうにケラケラとその哀れさを笑いながらわざと怯えたふりをしたり、おちょくるようにして弄んでいるようだった。
「……キョェエエエェエエエエエ!」
思うようにいかない苛立ちからなのか、はたまたおちょくられて頭にきているのか、トゥイードルディーは空気を劈くような奇声で吼えた。
これまた金属音のようで耳を塞ぎたくなってしまうほどの不快さなのだから始末に負えない。
ルーシーは一頻りその姿を楽しんだ後、再びナイフを振りかざそうとしたトゥイードルディーを掴んでいたその腕を勢いをつけて振りかぶる。