終盤戦


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07-2.マウス・トラップ



 こちらの気がヘンになりそうだ、そのくらいの凄まじさでひたすらゲタゲタと、シカは笑い続けた。

「なに!?……何なのぉっ!」

 耐え切れなくなったように、思わずまりあが耳を塞いだ。鼓膜にまとわりつくような、不快極まりない笑い声を響かせながらシカはドツボにでもはまったみたいにまた一巡して爆笑し始めた。

「何……どんな仕掛けのオブジェ?」
「うるさいったらない! 何よ、一体……」

『ぎゃは、ぎゃははは! ぎゃっははは、ぶぁーか! ぶぁ〜〜〜〜〜〜〜っか! 小娘どもォ、生きて帰られると思うなよ……ひゃは! ひゃーははははは、あひいいいい!』

 どこか聞き覚えのあるその声はきっと多分……。

「……あンのババァッ」

 まりあが勢い良く立ち上がった。同時に中指を突き立てつつ叫ぶ。

「Fuuuuuuuck!!! てんめー!……よっくもこんな可愛い女の子をキッタナイ場所に連れ込んでくれたわねえ! 絶対にギッタンギタンのボッコボコに……」

『ぎゃははははッ! 屋敷中には監視カメラが仕掛けてあんのさ! だからどーこへ逃げようが無駄なのよ、無駄ったら無駄! オホホホ! オホッ、オホッ、ゲホッゴホッ……はあはあ、オホホ……おまけに汚いネズミどもを追い詰めるためのトラップも完全完備なんだから!』

「はぁあ!? ワケのわかんない事ぎゃあぎゃあほざいてないであたしと正面からねえ……」
「――まりあちゃん!」

 つかつかと前に踏み出そうとするまりあの腕をナンシーが後ろから取り押さえた。え、と不思議と目を丸くさせナンシーのほうへと振り返るそのすぐ真下。

 まりあがあと一歩踏み出していたらどうなっていたか……まりあの足元にあった筈の床が消失……厳密に言うと、そこだけ蓋が開いたように左右に開放されていた。

「……きゃあああっ!?」

 慌ててまりあが後ずさってナンシーにしがみついた。

『……オホホ! 危なかったわねえ、お嬢さん。そのまま歩いていったとしたらどうなっていたか、その目で確かめてご覧なさいな』

 言われるままにまりあは恐る恐る覗き込んでみる。

「……なっ」

 穴の下に広がる暗闇。その深部にて――。

 奥底のそれを見るなりまりあがうっ、と顔をしかめた。続いてナンシーもそっと覗き込んでみる。

「――……これは」

 何だったか、これに近い光景を見た事がある……仕掛けられた銀色の針の山が次の獲物はまだかと手招きするようにそこに待ち構えている。

 それは何だか巨大な魔物の一つの口を思わせた。広がる闇色の大きな口と、無数に映え揃ったジグザグの鋭利な牙。そしてその牙によって尊い命を食らい付かれたのであろう、犠牲者の姿が既にいくつかあった。

「うっ……」

 それは半分ミイラ化したもの、完全に白骨と化しているもの、それから比較的まだ真新しいものや……ナンシーはその場に戻したくなるのを何とか堪えて目を瞑って、そこから一歩離れる。

『あっははは! どう、絶望した? アハハハ、いい気味だわ! 死ぬ前にたっぷりとこの世の地獄を見せてやるわよ〜〜〜! そこでぶるぶると震えて待ってるがいいわ! すーぐにそっちへ向かってあげるっ! オーホホホホ!』
 
 そこで音声がぶつっと途絶えた。

「……マジなの!? こんな仕掛けがあちこちにあるんじゃ簡単に脱出できなくなったじゃない! そうだわ、どこか窓を叩き割って降りるのよ! 大丈夫、高いところから落ちる特訓はしたもの。木がクッションになれば」
「落ち着いて。……きっと同じように考えて実行した人たちが過去に何人もいたと思うの。それをあの狡猾そうな女が見逃すとでも?」
「……で、でもそしたらぁ……」

 それまで気丈に振舞っていたまりあだったが、やがて堪えきれなくなったかのようにその両目に涙の膜が浮かび始めた。

「ど、どこに逃げりゃいいってのよぉー……」
「――……」

 ナンシーが来た道を振り返ると――……長く伸びたその廊下の先に、先ほどまではいなかった筈の車椅子が一台、ぽつんと置かれているのが見えた。

「?……何、あれ」

 その疑問を口にするやまりあが顔を持ち上げた。その車椅子がキイキイと音を立てながら徐々にだがこちらへと近づいてきている事に、気が付いた。同時にその車椅子が無人ではなくしっかりと何かが乗っかっている事にも。

「あれは」

 まりあはソイツをしっかりと覚えているし、忘れようにも一生忘却できないであろう。




ママのこの高笑いは
映画『フリークス』の悪女クレオパトラさんの
ケタケタ笑いを思い浮かべていました。
あっちは咳きこんじゃいないが。
凄い演技力でなぁ、あの人。
本当に見てて怖くなる悪女。
あの役柄の印象が強すぎて彼女は
生涯役をもらえなかった、っていう
逸話があるけど酷い話だ。
今ならそれで評価される時代だけど
昔は残酷だなぁ。



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