終盤戦


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06-5.17歳の斜陽



 やがて窮屈なその車内から解放されて、一同実に清清しい顔をしていた。それぞれ新鮮な酸素を求めて大ーーーきく呼吸している。

「あ゛ぁあ〜、苦しかった! もう絶対あんなの無理!」

 創介が喚きながら外の空気を胸いっぱいに吸い込んでいる。その横をセラがすいと通り抜けるのを見て反射的に声をかけてしまった。

「んあっ、せ、セラ!」
「……」

 セラがちらり、と横目だけで返してきた。それはそれは、実に冷たげな眼差しだったが負けていられない。男には引けぬ戦いがあるのだよ。

「あー、あーと。ほ、ほんとは……。ほん、とは」
「……」
「本当はあんな事言いたいんじゃ、なくて、ですね」

 やはり戸惑うと敬語が混ざってしまうのは仕様らしい。二の句を必死に繋ごうとする創介であったが、セラが振り返りながらそれを制した。

「いい。……その先は、全部済んでからで、いい」
「へ」
「――僕も言いたいことが出来たんだ。だから」

 ぽかんとアホみたいにしている創介に向かって、セラが歩み寄ってきた。それで、さっきと同じくらいにまで距離を詰めた。いや、それ以上か。びっくりして心臓が飛び出そうになるほど近くにまでセラはやってくると、とても格闘技をやっているとは思えないそのほっそりした腕を伸ばしてきた。

「……」

 射止められたように、ぼんやりとその行動を見守っているとセラの手が創介の頬に触れた。そういえば、ここ数日まともに風呂らしい風呂にも入れてないのを思い出したがまあとにかく。

 創介は視線を戻して、セラの顔をまじまじと正面から捉えた。

 聡明な感じのする、それでいて誰にも負けないくらいに強い意志の宿った大きな瞳。柔らかなまつげのラインに、はっきりとした涙袋。丸顔でどちらかというと全体に幼い印象の顔立ちに、今や砂埃やら返り血やらの汚れがうっすらと付着していた。

 この、くそったれな状況が、セラ本来の美しさ(と、言うと少々気障な感じがするが)を根こそぎ奪い去っているに違いない。改めて観察して、セラがこんなにも愛くるしい顔なんだと気がついた。

「……お前って、不思議な奴だな」

 やや感傷に浸りながらぼけっとしていると(おいおいそんな暇はないんじゃないのかい、お兄さん)セラの方からお声がかかった。

「育ちはいいくせに全然品は無いし、マナーもなってないのに。でも素直で、勇敢で、妙なところで正義感だけはあってさ」
「ひ、品が無いかぁ〜、そうかあ」

 セラがちょっと肩を竦めつつ笑ってから、ふっとその手を離した。

「って、こんな事してる場合じゃないね。じゃ、また後で」
「う、うん」

 言いながらセラが踵を返して駆け出していった。

「……」

 セラに触れられた箇所が何だか熱でも持っているように熱かった。その光景を有沢がやや複雑そうに聞き耳を立てていたようだが特別邪魔立てするような真似もしなかったようだ。

「どう? 複雑?」

 代わりにと言わんばかりに雛木に何やら聞かれているようだ。

「好きな子の幸せを願って身を引くなんてさ、有沢くんも結構意地らしいとこあんだねー。見直したー」
「……」
「あは。振られちゃって、かわいそー。……あ、何なら僕が穴埋めしてあげよっか? あまりにも哀れで見ていられないよ」
「先行くぞ」
「……って、あ! もう!」

 すたすたと立ち去ってしまった有沢の背中を視線で追いながら、雛木はその場に地団太を踏む思いだった。




くるみさんが相撲見てたら
遠藤かっこいいから
遠藤受書いてよとかとんでもない事を
ラインで送ってくるんですが誰か止めて下さい。
白鵬に報われない思いを抱く遠藤の
恋慕の話とかどう? と、最近は
話の内容まで練ってくるんだけど……
誰か彼女を止めてくれ……



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