06-2.17歳の斜陽
何だろう。駆け引きとかそういうのなの? 試されてるんだろうか、今の自分は。
「……そ、それは」
山道にさしかかったせいなのか、そこで車内が激しく上下した。
「もっと丁寧に優しーーーく運転しろよ、このド下手くそっ! 女抱く時そんな手荒な事しねえだろうが!」
ミツヒロが何やらわけのわからない例えと共に絶叫するが、ミミューはすっかり無視しているらしい。
「ねえ、神父ちょっと苛立ってるよねアレ」
雛木が凛太郎と一真に呼びかける。ちなみに雛木はヒロシを椅子代わりにして実に快適そうだ。
「ああ、言われてみればあのお喋りもないしな。いつもはうるっせぇくらい喋るくせに」
凛太郎は一真を椅子にしており、一真の足元にはストライカーが足蹴にされている。何だかある種前衛アートみたいな光景だ……。
雛木が脚を組み替えながらふうっとため息を吐いた。
「どうしたんだろうね? 一体。珍しいなァ。あ、でもいつものヘラヘラした顔よりかっこいいからいいかな。すごく僕好みー、なんちて」
言いながら雛木が舌なめずりをしている。それはハッキリ言って好みの異性を見ている顔というよりは美味しい料理に喜んでいる時の顔に見えたがまぁともかく……。
雛木に椅子にされながらヒロシは実に機嫌が悪そうだ、めちゃくちゃ鬱陶しそうに雛木の脚を払いのけたりしている。
「ちょっと何すんだよぉ。この僕に椅子にされて喜ばない奴なんかいないんだよ? もっと嬉しそうにすれば〜?」
「……どこのどなたか存じ上げませんけどね、眼鏡にぶつけるのだけは止めていただけませんかね。僕にとってはこの眼鏡の方が貴方よりも価値が高い」
「なんだとォ? つーかそんな感じの言葉、さっきも誰かに言われたような……思い出せないけど。ていうか、さっきからおかしくない? こんなに大勢男がいてその中でこ〜んなに可愛くて刺激的な格好をした僕が一人。……何で誰一人僕に近づこうともしないわけ!? 僕のフェロモンがまるで通じないなんてッッッ! 何? ひょっとしてみんな性欲ないの? 勃起障害? 草食系とかそういうアレなの? うっざ〜、きんもーっ!!」
思い通りにいかなかったのが相当にムカついたんであろう、何事かキイキイと喚き始めた雛木だったが皆耳を貸すのも止めてしまった。
「……ねえ、創介」
「うへっ」
セラがもう一度、問いかけてきた。
「それで、話が逸れたけど。何だったの、さっきのあれは」
「で、ですから。それは。ですね」
変にたどたどしい口調になって、創介はさっきまでの勢いはどこへやらしどろもどろになってしまう自分を感じた。
そりゃそうだ――何だってこんな大勢のいる中でそんな事、告げなくちゃいけないんだ。セラさん、あんたは鬼畜ですか? 逃げ場がどんどんと絶たれていく、そんな怖さもちょっとばかしあった。
らしくもなく色恋の探り合いに怖気づく創介だったが、セラは今すぐにでも答えが欲しそうだ。創介の肩に腕を回しながらセラはその時を今か今かと待っているようだった。その腕にぎゅっと力がこもるのが分かった。
「あ……え……んん〜?」
セラのさらさらした黒髪が、創介の頬をくすぐった。
「あ、おうあ、えへ。あの、ですね。だから、あれだよ、あれ。お前がいなくなったら、その、ずっとお喋りできなくなっちゃうから……せ、せっかく仲良くなったのにな。うん、寂しくない? そういうの……」
「そんなの……、答えになってない」
セラの声がちょっとばかし暗くなった。
「う……あ〜、あ」
アウアウと口ごもる創介に、セラはもう一度だけチャンスを与えてみるのだった。
「それで? 本当にそれが言いたかったこと?」
セラの声がすぐ耳元を通り抜けた。創介は益々パニックになってしまったみたいに髪の毛をかきむしり始めた。頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。胃の中がぐるぐるとかき乱される感じがする……。