02-1.ランカスター・メリンの右手VS俺ら
己の片腕の隙間から顔を覗かせながら、ルーシーがやはり呑気な口調で言うのだった。
「物騒ですねー、そんな事言うなんて〜……」
「許さないからな、絶対に――絶対にお前だけはッ!」
軸脚を返しながら今度は回し蹴りを放つが、これも膝で簡単に受けられてしまった。ぜえぜえと肩で息を吐きながら、ミミューがきっとその顔を持ち上げて睨み据える。
「あのねぇ……そんな簡単に殺すなんて言うって事は、自分ももしかしたら殺されるかもしれない。って覚悟があっての事なんですよね? そこのところ、ちゃんと理解していないと――」
その声は一見すると奇妙に優しい心地がしたが――ミミューはやはり、怒りに身を任せたまま叫んだ。
「ああ、殺してやるさ……絶対にブッ殺してやる、相討ちになろうが地獄まで付き合わせてやるよ」
もう一撃目もあっさりと受け流して見せたルーシーが、そこでまた小さく微笑した。
「ふーん。なるほど、ですか」
拳での鍔迫り合いを弾いたのはルーシーだった。間髪いれずに、ルーシーは自分の腰のベルトを掴むと、上体の捻りをきかせて後ろ回し蹴りを決めた。
ノーモーションで行われたそれに、今や怒りで脳裏を支配されているミミューは何の受け身も取っていない――身長差で言えばミミューの方が僅かに低く、もろに顔に入りやすい。案の定、ミミューは顔面に蹴りをもらってそのまま背中から倒れた。
普段の冷静さがあればこうも派手にもらうことなどなかっただろうに。
「げっ……」
そのあまりにも綺麗な『技アリ』に、創介が思わず声を上げた。副審、主審ともに判定ルーシー。異議なし、間違いなし――の、ハズが。
「ま、だ……」
ミミューが、ゆっくりと立ち上がった。
「まだだ、――僕はまだ立てる、ぞ……」
よろよろとではあったが、ミミューがもろに蹴りの入ったのであろうその右頬を押さえながら何とかかんとか立ち上がる。
「おんやぁ」
それを見てルーシーがどこか嬉しそうに感嘆の声らしきものを洩らした。今度は、ミミューの方からルーシーに組みついていた。
「ま、マジかよ……」
創介があんぐりと二人を見つめながら苦笑した。
「創介、ぼさっとするな!」
セラに叱咤されて創介がようやくはっと正面に視線を戻した。
「――君のお相手は僕がしましょう」
静かにそう言うのはヒロシだった。脇をしめ、顔面辺りをガードさせながらヒロシが構えを作った。セラが、張り詰めたようなその表情のままで少しだけ目を細めた。
「……勿論だよ」
ごくりと唾を飲みながら、セラがそれに応えるよう自身も構えを取った。
「ふんだ、こんな相手楽勝じゃな〜い? つうか何ビビってんのさ? あんなションベン臭いガキども、僕一人で十分だよー」
そんな風に余裕をぶっこいているのは当然と言うか何と言うか、雛木だった。