終盤戦


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17-1.悪魔は取り引きに応じるか?



「その人にそれ以上、手を出すな」

 凛太郎が改まったように言い放つも、ルーシーは面白げに振り向いて見せてから二、三度と気味の悪い笑みを浮かべた。

「ほお〜〜〜。僕に楯突く気かい、兄弟?」
「ハッ、兄弟だぁ? 反吐が出るぜ。テメーみたいな化け物と身内になった覚えはねえんだよ。……この、イカレたクソ異常者が」

 その意識はとうに朦朧としてはいたが……ミミューは思った。何故、凛太郎はそんな真似をするのだ? 元より凛太郎の口が悪いだけのことかもしれないがこんな目に見えた挑発など……疑問には思ったがそれを声に出せるほどの余力もなく、ミミューは視線だけを動かすので精一杯であった。

 憮然として言い放つ凛太郎を見据えながらミミューは肘を突いて何とかその上半身を持ち上げようとする。――が、掴まれていたその頭部をもう一度壁へと叩きつけられてしまった。

「……言うようになったじゃないか。どういうつもりなのか知らないけどね」

 ルーシーが人差し指を持ち上げつつ言うと、凛太郎も何やら不適な笑みを浮かべている。その背後、有沢が追いついてきた。

「お、おいお前ら一体……」
「ナオ、一つ取り引きをしようじゃないか? 和平的だろ」

 言いかけた有沢を遮るように凛太郎が呟いた。

――取り引き?

 そこにいた誰もが同じように思い、顔をしかめたことだろう。ルーシーも興味深そうに振り返っていた。凛太郎が何やらがさごそと懐をまさぐり始めた。

 何をする気なのかと思えば……取り出したのは茶色い紙袋だった。

「ここに写真がある」

 多少の期待を寄せていた有沢だったが拍子抜けしたような声を漏らした。何を取り出すのかと思えば、写真ときたもんだ。

「しゃ、写真……?」

 有沢が小首を傾げている。あれか? お前の恥ずかしい写真をバラまくぞ、とか、何だかそういう官能小説みたいなシチュエーションなんだろうか……いやいやバカな……。

「この写真をくれてやるからそいつを解放しろ。どうだい、フェアだろ?」

 凛太郎がにか〜っと白い歯を覗かせて笑った。

「そ、そんなものだけで応じるわけが……」

 有沢も肩を竦めつつ言うがルーシーは笑うでもなく怒るでもなく、真剣な眼差しで答えるのであった。

「――中身は?」

 ルーシーはいつの間にやら腕組みをし、立ち構えていた。

「は、反応しただと……っ!?」
「ここからだよ。本当に驚くのはね」

 動揺する有沢の隣、ペットの手綱でも引くような仕草をしている一真が囁いた。


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