終盤戦


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16-1.Damsel in distress



 その扱いといったらまるで邪魔な荷物でも放り込むが如くで不満を覚えるが……拘束されたこの状態では文字通りに手も足も出せないのだ。
 醜い巨漢と眼鏡のちびコンビは、まりあとナンシーを車に押し込むと自身もすぐに乗り込んだ。その手際の良さと言ったら見ていて感心してしまうほどで、手馴れていることを感じさせた。

 運転をするのはチビの方で(まったく、そんな短い手足でどうやって運転が出来るのやら?)扉を閉めるとすぐにキーを差し込んだ。

「……やいっ、くそでぶ! お前がちんたらしているせいで、遅刻したらどうしてくれるんだ。ママは時間を守らないとうるさいんだ。叱られたら、タダじゃすまさないぞ。いいな!」

 声だけを聞いていればそれはまだ幼い子どものようだが……。チビことトゥイードルディーはハンドルを握り締めると車を発進させた。

――あらあら、僕ってばアクセルに足は届いているのかしら……?

 何だかしみじみと心配してしまったが、そんな場合ではない事を思い出す。まりあがぶんぶんと首を振り、縛られた両手足のまま暴れようとしてみる。

「んっんーッ! んんんんんんん゛ーッッ」(訳:「ちょっと! 解きなさいよ!」)

 許す限りに声を荒げるが、運転席のトゥイードルディーはと言うと素知らぬ顔のままである。それどころか、舌打ち交じりに言うのだった。

「まったく、うるさい女だ! ママ以外の女は嫌いだ! 女は男を駄目にさせる、破滅に導くんだッ! いいか、デブ。間違っても女なんか好きになるんじゃない! 女は、いい子の仮面を被った魔物だ!」
「……」

 助手席の巨体がのっそりと揺らいだ。こちらは今しがた運転中のおちびとは正反対にデカく、力もありそうだった。その巨漢が、ゆっくりとこちらへと振り返る。

「っ!? ん゛ん゛ん゛ーーーーーッッ!!!?」

 振り返ったその巨漢としっかりと目が合った。途端にまりあが塞がれたその口のままに絶叫を上げた。

 だぶついた顎、半開きの唇から覗く不揃いに生えた歯、落ち窪んで、それでいて腫れぼったく閉じた瞼、全体に土気色をした健康な人間とは言い難い肌色――この世の者とは思えぬ醜い容姿の男……だった。

「う……」
「んー! ん゛ーーーっ!! んんんんんんんッッ〜〜〜!」(訳:「ギャー! いやーーー! 近づかないでーーーー!」)

 その巨漢が何か口を開こうとすれば、まりあがこれでもかと悲鳴を叫び散らしてしまうのだった。巨漢……もとい、トゥイードルダムは何かを言いたかったようなのだが見兼ねたように口をつぐんでしまった。

「……馬鹿やろう!」

 叫びざま運転席から、短い子どものような拳が伸びた。ぽこん、と痛くもなさそうな鉄建がトゥイードルダムの肩辺りを突いた。

「お前は特に醜い! 醜く肥えていておまけに顔面がそれだ、そんなお前は他の人に話しかけちゃいけなんだぞっ!」
「ウウ……」
「分かってるのか、ええっ!? お前、自分の不細工さを自覚していないのか、この豚!……お前はこの世で一番醜い怪物だ! そんなお前がでしゃばろうとするのは許されない、絶対に許されないんだ! 分かったか! 身分を弁えろ、くそでぶっ!」
「ウー……」

 今度はぺちんぺちんと痛くも痒くもなさそうな平手打ちが何度も何度もトゥイードルダムの身体へと当たる。

 わけの分からぬそのやり取りを見届けながらまりあがしばし呆然としていたが……すぐにまた我へと返る。隣で気絶したままの透子を何とか起こそうとしてみるが、ままならない。 

「……ママに褒めてもらうんだ……ママに……」
「……」

 得体の知れぬ目の前の二人組みは、一体自分をどこへ連れて行き、何をしようというのだろう。まりあにも、そして透子が目覚めていたとしても当然検討がつくはずもない。

――兄上、隊長、助けて……っ!

 恐怖で身体が竦みあがるなど、もう何年ぶりかの事であった。おまけに涙まで浮かべて……そんな自分を不甲斐ないと思いながらも恐ろしいものは、どうしようもなかった。

 とりあえず今のまりあの頭の中にミツヒロの事は微塵にもないらしい。




兄上早くまりあちゃんを助けてあげて!
手だけで十分だとか言いながら
足技でセラちゃんをいたぶる兄上マジ兄上
さすがはお兄様です
汚いなさすがヒロシきたない



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