11-1.ソドムとゴモラ
「そーれ脱がせや、脱がせッ!」
「あわわわわわ、あわわわっ!」
必死な抵抗を続けるストライカーであったがそれも長くは続かなさそうであった。双子に押さえつけられていまい、凛太郎はストライカーの胸ぐらを掴み揺さぶりをかけている。一真がその後ろでニヤニヤと見守り、もはや形勢は完全に逆転した。有沢が渾身の気合いをこめてせーの、とマスクを引っ張り脱がす。
「……ぎにゃああああっ!!」
で、マスクを奪われたストライカーがそれはまるで女のような甲高い悲鳴を上げた。後ろからホールドされながらもストライカーはぶんぶんと顔を横に縦にとヘッドバンギングよろしく降りまくったがそれも虚しく素顔を曝け出される時が来たのだ。
「さーてどれだけブサイクなのか笑ってやろうじゃねえか、いひ、いひひ! 殺人鬼のマスクの下の顔は大体ブッサイクなのばっかだからなぁ!……あ、マイケル・マイヤーズは違うか。うん。まあいいけどさ、ほ〜らいってみよっかー!」
得意のホラー映画薀蓄を絡めつつ、凛太郎が邪悪な笑い声と共にストライカーの髪を鷲掴みにした。
「いやー! いやー! い……」
「え」
持ち上げられたその顔に見覚えは無い。見覚えは全く無い、が。
そこにあったのはとんでもなく整った、いわゆる美形な青年で今鷲掴みにしているその髪の毛だってまばゆい金色だ。痛んでなどいないツヤツヤの金糸の如きブロンドヘアー。
向けられる双眸は深い深い蒼色で、透き通っている。
「……え?」
再度の「え?」にストライカーがその端正に整った顔を歪めて叫んだ。
「見ない……見ないでぇえ! どうせ俺は世界で一番醜悪で気持ち悪い不細工な生き物なんだァアア〜〜! ひあああああ!?」
「い、いや……」
――『気持ち悪い子だね! お前の顔なんか見たくないよ!』
「あ……ああああ」
脳裏に蘇るのは幼い頃に散々浴びせられた母親からの心無い言葉だった。
――『ねー、何であの子喋らないの?』
――『暗いよねえ、それにいつも笑わないし』
――『変なの、気持ち悪ーい』
小学校の時、クラスの女子からひそひそと騒がれた事を思い出していた。
「き、き、気持ち悪い……あ、あああああ!」
「? 何だ、どしたんだコイツ……」
喚き始めたストライカーに凛太郎が不審気に顔をしかめる。
「――ど〜〜〜〜〜うせ俺は気持ち悪いんだよ! 知ってる知ってるあーーーー知ってるッ! キモくてどうもすんませんねええええ! 好きでこんな気持ち悪く生まれたんじゃねえんだよっ、うおおおおああああっ、死ねええええ! どいつもこいつも死ね! 氏ね!!」
突如叫び出したかと思えばストライカーは唖然とする一同の腕を振りほどいたのであった。