23-2.抱擁
するとガイは、今度はその手を伸ばした。ミミューの頬にそっと手を添えた。それから、その姿勢のまま何も言わずにそっと優しく、だけどもきつく抱きしめてくれた。
そんな場合じゃないだろうに、ミミューもガイも、言いようのない至福を感じていた。それはそれは、この上なく幸せだった。
それからそのまま、唇を重ねた。もはや一秒でも勿体ないというのにも関わらずに、長く長く。ミミューはちょっとした悪戯心がこんなにも事が大きくなるなんて、とどこか申し訳なく思いつつもたまらなく幸福であった。うっとりとした夢見心地のままで、このままこうしていられたらなあなんてボンヤリと考えていた。
「……あっ」
その至福の時が終わるのと同時に、愛しい恋人の眼鏡はしっかり奪い返されてしまったのだけれども。
「じゃあな、ミミュー。仕事行ってくるよ。お前はどうするんだ?」
「もう、ちゃっかりしてるなあ。……僕は二度寝していいかな、何だか疲れが抜けなくてさぁ」
「ああ、いいよ。帰るんだったらガスと電気と戸締りだけはしっかりしてくれよな」
ガイがジャケットを羽織りながら言うと、ミミューが笑顔でこくんと頷いた。
「分かってるよ。お仕事頑張ってね、おまわりさん」
「そっちこそ頑張れよ。神父さま」
振り向き際、ガイがぽいっと合い鍵を投げて来た。逞しい彼からは想像もつかないようなマスコットのキーホルダーがちゃらちゃらと付けられた鍵がぽすっとシーツの上に降ってきた。これは確か、アレだ。一緒にクレーンキャッチャーで、お揃いで取った景品のクマのマスコット。運良く二個いっぺんにアームに引っかかってくれて、馬鹿みたいにはしゃいだ。いい歳こいた大人の男が二人……それを思い出してミミューはくすっと笑った。
しかもクマの塗装がはげかかっているので、更に可笑しくなってきてしまう。
「また連絡するよ」
「うん。いってらっしゃーい」
部屋の扉が閉まる音――それでしばらくしてから、聞き慣れた車のエンジンがかかる音がした。一人残された部屋でミミューは再びベッドの上に落ちた。二度寝する、とは言ったもののすっかり目が冴えてしまったので、さてどうしたものか、と思う。
まぁ自分も仕事があるし、さっさとシャワーを浴びて自分も支度をせねば……とミミューが再び置き上がった。
「あっ」
脱ぎっぱなしにされたままの、ガイのワイシャツが目に飛び込んできた。ミミューはベッドから降りるとそれを手に取った。手にしたらやる事は勿論一つだろう、ミミューはそれを抱きしめるとその匂いを吸い込んだ。
傍から見るとやや変態くさいだろうなぁ、なんて思って苦笑した。それから、ミミューはかなり大きなそれを羽織ってみた。袖を通すが当然、余っている。
「はは、……ぶっかぶかだ」
分かっちゃいたが自分に全くサイズの合っていない、そのシャツにミミューは思わず声を出して笑っていた。
それを着たままミミューはベッドにもう一度沈んだ。めいっぱい、恋人の匂いに包まれて心底幸せだった。それから、ガイには「変態め」と呆れたように言われてしまったが、こういう何でも無い事が本当に幸せで幸せで仕方なかったのだ。
神父って凄い相手に依存しそうだよね。
僕だけを見なさいよタイプ。
でも自分は平気で浮気すると思う。