中盤戦


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23-1.抱擁



 恋人の眠った後のベッドに転がるのが、何よりも大好きであった。

 たとえ変態だと罵られても構わない、ミミューは昨夜一戦交えた後のシーツの中に包まりながら枕に顔をうずめてくんくんとその残り香を吸い込んでいた。まだ温かさの残る布団の中は、実に居心地がいいものであった。

「……ああっと、……携帯どこ置いたっけ……」

 朝っぱらから騒々しい恋人は、何やら大事な早朝会議があるとかでいつもより早めの出勤らしかった。

「ここだよ、ガイ。焦ったら今度は別のものを忘れちゃうからとりあえず落ち着きなよ」
「あ、ああ。ありがとう、ミミュー」

 布団から腕だけを見せながらミミューが彼の携帯を手渡した。ガイは片手でネクタイを締めながらその手から携帯を受け取る。

 携帯を受け取ってもガイはまだ落ち着かない様子だ。短く切り揃えられた、金色の髪の毛を掻き毟りながら辺りをきょろきょろと見渡している。

「えっと、眼鏡……、眼鏡は」

 で、お次は眼鏡のようだった。

 普段は裸眼が多いのだが、運転の時だけは『要・眼鏡』なのだそう。彼の免許証にはそう書かれている。

 ガイはどちらかと言うと強面というか、いかつい顔をしていたし(中身はと言うと正反対で、温和すぎるくらいに温和である事をミミューはよ〜く知っていたが)、眼鏡をかけるとより厳しさが強調されるんだとか――誰に言われたか知らないが本人はそれをやたらに気にして、極力眼鏡をかけることを避けている。

 時と場合によってコンタクトと使い分けているようだが、やはり本音としちゃ眼鏡の方がラクなんだろう。このように時間に余裕の無い時は手軽な眼鏡で済ませることが多い。

「それも、ここ」

 言いながらミミューがひょこっと布団から顔を覗かせた。

 黒縁の眼鏡をかけたミミューが嬉しそうに微笑んでいるのを見て、ガイがしてやられたという感じに、後頭部を掻いて苦笑した。

「……ミミュー、返してくれ」
「え〜、どうしよっかなぁー」

 余談だがミミューはよく童顔だと言われる事が多いのだが、こうやって眼鏡をかける事でちょっとばかり年相応に見える。

 いたずらっぽく笑ってミミューが更に言った。

「僕の事、好き?」

 こんな時に何を言い出すのか、と思ったがガイは迷うことなく答えてくれた。真っ直ぐな視線で。

「ああ、好きだよ」
「本当かい? 本当に本当に本当に、本当かい?」
「本当に本当に本当に本当だとも」

 こんなバカげた質問にも、そして子どもみたいな意地悪にもガイはいちいち付き合ってくれるのだからミミューもつい調子に乗ってしまいがちだ。だからこうやって事あるごとに面倒な事をけしかけて、わざと困らせてみたくなる。

「……愛してるって言って?」

 ミミューが少し声のトーンを落としつつ呼びかけると、ガイは無言のままミミューの前に近づいた。ゆっくりと、その腰を降ろした。

 じっと優しげに見つめるその目が言っているようだった。決して声には出さなくとも、『変わることなく、愛している』と。……多分。




何この美しい思い出……
まさか神父に死亡フr



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