中盤戦


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14-1.カニバる



『♪みんなで食べよう、美味しく食べよう♪ お肉♪(ほい)肉肉、肉汁!(ほい)ジューシー! 美味しい肉まんなら街のお肉屋さん、<ひかりごけ>へ行ってみよ〜う♪』

 似つかわしくない程の明るい歌と、それに合わせて踊り狂うのは子ども向け教育番組さながらの面々――ファンシーにデフォルメされたブタの着ぐるみと、その隣にはポンポンのついた帽子を被ったミニスカの女の子。女の子、といえばいいのかお姉さん、といえばいいのか。その中間ぐらいの年頃だ。

――お姉さん、べっぴんさんだけど歯の矯正器具ついたままなのか……

「またこのCMやってんだー。いい加減このリズム覚えちゃったよ、私」

 ナビに向かってまりあが呟いた。

「……一体何のCMでしょうか? 前々から思っていたのですが」

 ヒロシは少し離れた場所から問い掛けた。ちなみに彼は現在、着替えを済ませた後戦闘スタイルに武装している。

 ホルスターをしっかりと締めながらヒロシが少しだけ顔を上げつつ更に続けた。

「というか、こういう事態になってからいきなり乱発するようになりましたね」
「お肉屋さんのコマーシャルらしいですよ」

 ルーシーが答えてやると当然ヒロシは眉を潜める。

「……肉屋?」
「そそっ。この最中であろうと毎〜日経営しているんですって、おかしいでしょう。只でさえ物資不足の食糧難ですものね、こんな状況であろうともあちこちから肉を求めて危険を省みず買い集うお客さんで大繁盛!……ですって」

 言いながらルーシーは手にしていたフリーで配られているものであろう情報誌をぺっと捨てた。ヒロシはホルスターの上から学ランを羽織ると(結局、これが一番動きやすいらしい)足元に捨てられたその情報誌を拾った。

「『世紀末グルメ情報』……? はあ、随分とまたくだらない事をしますね」

 発行された日付を見れば、世界がゾンビで溢れてから作られた特別号らしいので驚いてしまった。くだらないとは言いつつも手にしてしまった以上は、何となくパラパラと眺めるしかない。

「肉まんがねえ、美味しいんだってェ」

 そう言ってどこか夢見心地に呟くのはフジナミだった。

「肉まん……?」
「んー」

 フジナミがこくこくと頷く。

「そぉなのぉ。ほっぺがねー、落ちそうになるくらい美味しくって一度食べたら病みつきになって、他の肉まんが食べられなくなっちゃうんだってェ。ティヒヒ」
「えー。そんなに美味しいの? 美味しいもの好きのフジナミくんが言うんなら間違いないよね。私も食べてみたいなあー」

 その未知の味でも想像しているのかうっとりとするフジナミに、まりあが被せる様に呟いた。

「……この状況で肉食いてーとかどーかしてるだろ、おぞましいわ」

 ハンドルを切りながら苦笑混じりに毒を吐くのはミツヒロであった。

「――そこは同意しますよ、珍しく」

 ヒロシが空マガジンに弾を詰めながら返した。

「え〜、兄上も食べたくありませんか? 絶品の肉まん」
「遠慮する」
「えー、一度でいいんだけどなあ」

 まだ未練を捨てきれなさそうなまりあであったが、テレビが再び先程のテーマソングを流し始めた。外の終末めいた雰囲気を押しきるかのような、素っ頓狂に明るい歌声に振りつけ……不謹慎だと騒がれそうなものである。このご時世に。




イメージとしては
自殺サークルって映画で歌われていた
可愛いけど歌詞がぐろいあの歌。
『それではみなさんさようなら』だったかな?
何かああいうほのぼのソング。
曲調なんか考えてないけど脳内で歌えそう(ほい♪)



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