13-2.ほのかなる希望
それを受けたようにミミューがふっと口元だけで軽く笑い、言った。
「何だ、そんな事」
大した問題じゃない、といった風な口調で言い、ミミューはもう一度にっこりと笑んだ。
「セラ君が気に病む様な事じゃない。もしそうでないのなら、ただそれだけの事じゃない。例えセラくんの免疫機能が人々を救えなかったとしても僕らがセラ君と第七地区へ向かう、という目的は達成されるんだから」
「神父……」
「あ、もしかしてその目はコイツまた甘い事言ってる……とか思ってるかな? 君もちょっと凛太郎くんに似てる所あるよねえ」
クスクスとミミューがいやに少年臭い笑い方をする。
「僕らは君の仲間だよ、セラ君」
「……」
どこかこそばゆいのか、セラが戸惑ったようにその視線を下へと向ける。
「そーだぜっ」
我慢しきれなくなったかのように創介がミミューの背後から飛び出した。
「俺も有沢もそういうつもりで! いるから! なっ!」
「……創介」
「そんな覇気の無い声出すなや〜、セラちゃんよ。お前はもっとこう、ツンケンしてるほうが似合ってるよ」
言いながらセラの頬をぴしゃんと叩く。
「――ありがとう」
それでセラが肩を竦めて少しだけ、笑った。本当にちょびっとばかり。
「だけどセラ君。少し気になる事、聞いていい?」
ミミューがあっと思い出したように呟いた。
「噛まれた事が無いのに、どうして自分は感染しているって知ったんだい? それって自覚に至る出来事があったんだろう?」
そこで一気にセラの笑顔が強張った。――創介には分かっていた、またあの目をする、と。
本当にその通りで、笑顔の消え失せたセラはちょっと俯き、あの恐ろしいほどに冷たげな眼差しに切り替わるのだった。
「それは……、」
ミミューもその変化を察知したのだろう、セラの表情を見るなり少しうろたえたみたいだった。セラはしばし考え込むように押し黙っていたが……やがて口を開き、言った。
「すみません、それは……ちょっと、今は出来れば話したくない」
「え?」
創介は何となく、あの時の出来事が原因にあるんじゃないかと思っていた。公園で見たあの時の出来事。
「で、でもセラ君。僕らとしても君からウイルスをもらう可能性のある行動を少しでも把握しておきたいのだけど……」
「それは――、そうならないように、僕が貴方達と接しますから今までどおりに振舞って頂いて問題は無い筈です」
そう言われてしまっては何ともまた――しかもそんな顔で、だ――こちらとしても、それ以上深追いするのが許されないような気になってしまう。
「よ……、よほど話したくないのかな?」
どこか恐恐としつつも、ミミューが尋ねるとセラは唇を引き結んだままで頷く。
「――ええ。思い出すだけでも吐き気がしてくるんです」
忌々しい記憶の底をほじくり返されまいとして、セラは頑なにその心を閉じ切っているように見えた。
「……そっか。なら僕らはとにかく前と変わらずセラ君に接しても何の害も無いって事でいいんだね?」
「……それははっきりと言えます」
セラがこくり、と頷いた。ここまではっきりと拒絶されては、もうこれ以上の進展は叶わないだろう。諦めたように、ミミューもそこから深く掘り下げるような事はしなくなった。