中盤戦


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14-2.カニバる



 ふと、一度聞いただけで耳に残るそのCMソングが終わったかと思うと今度は街頭インタビューの場面に切り替わった。

 実に唐突な繋ぎ方であったが、これも含めてコマーシャルの一つなのだろう。世界がこんな状況にも関わらずそこに映し出されているのは平和な日常シーンと言われても何ら問題の無い映像だ。

 インタビューを受けているのはいささか化粧の濃い〜〜めなおばさん二人組であった。いかにもおばちゃん、といった具合のお喋りの好きそうな中年ペアだ。

 よく見ると、画面横にテロップが表示されている。

――『ひかりごけ』に絶品肉まんを買いに来た二人組

 インタビュアーがマイクを向けると問い掛けた。

『街がゾンビ天国になっているにも関わらず買いにきたんですか?』

 オイオイその尋ね方はどうだ、と思ったがおばさん二人は別に気にも留めていない。むしろそれどころかニコニコの笑顔で答える。

『そうなのよ〜〜〜〜〜〜ォ! ここの肉まんをね、いっぺん食べたらモォ〜〜〜〜〜ッ、くせになっちゃってぇえええ〜〜〜』

 半ば大袈裟とも言えるリアクションを付けながらおばさんその一が叫んだ。

『ほっぺたがね! とろけ落ちそうなのよ!』
『そうそうッ! 口に入れた瞬間ね、もう肉汁がじゅわわって溢れて! 口の中いっぱいに風味が広がるのよォ、こんなの初めてェエエーって』

 おばさんその二が両頬を押さえながら絶叫した。余程の美味だったのだろうと思わせるのには十分だろうが、おばさん、もう、目が完全にイってしまっている。

『ね! もう何の味付けなのかしら!? 一度味わってしまったらね、何て言うかもう……肉まんどころか他の食べ物すら受け付けなくなっちゃうかもしれないわ! やだぁああ!』
『オホホホ! オホッホホッ!……あん、やだわーもう! ねっ! でも本当にそうなのよ! 現に今こうしてね、外が危ないのにも関わらず並んでるでしょう〜〜? なんだかね、あの肉まんを食べられるのなら命ぐらい惜しくないんじゃないかって思っちゃうの!』

 そこで二人が声を揃えて爆笑した。また場面は変わり、今度はレポーターと思しき若い女性の姿が映し出された。

『ご覧下さい! この長蛇の列! 危険区域に指定された区間にも関わらずにこの大繁盛ぶり! ただ事じゃありませーんっ』

「レポーターさんのお仕事って大変なんですね」

 それまで黙って、半ばいぶかしむような眼差しで画面を眺めていた一同であったがルーシーのその一言で途端に脱力してしまった。

『早速私達も並んでみようと思いま……って騒がしいですね? どうしたんでしょう。カメラさんこっちこっち……って、ギャアアアアッ』

 女性特有の甲高さを遙かに凌駕するけたたましい悲鳴。伴って、カメラが激しくブレまくる。カメラが目まぐるしく周囲を映しだしたかと思うと、何か衝撃があったようでノイズが走る。

 ぶつ切れる悲鳴に混ざって、一瞬だけ映し出されたのは口を開けたゾンビの顔だった。――画面、砂嵐。

「……当たり前だ」

 ふー、とミツヒロが呆れたような声を洩らした。




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