中盤戦


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06-5.葬って後は口を噤め



 だが、若者は依然気難しい顔のままで重々しくその口を開く。

「――お、お気持ちはお察しするのですが……、アー……実を言うとですね」

 あまり外部に漏らしては良くない話なのだろうか――若者が若干言いづらそうに、それでいて少し声を潜めつつ呟いた。もういっそ説明してしまえば楽だろう、と判断したのかくぐもった調子ではあるが話し始めたのだった。

「先程入った情報によりますと、この混乱に乗じて金品を強奪した強盗犯がこの順路を使って逃げているという話がございまして……それでまあ一時封鎖、という形を取っているんだと――」

 やや躊躇いつつも、理解を得る為にはこするよりも他ないのだろう。厄介なクレーマーや理不尽な思いをする民間人を生まない為にも、若者は正直にその理由を話してくれたのであった。

「……ええ!?」

 眼鏡の男性も驚いたが、少し離れて聞いていた創介達も驚いた。辺りを見渡してから、若者が更に声を潜めるような調子で続ける。

「――犯人二人組は宝石店の店員である女性二人を殺害、挙句逃走中に子どもと老人をその車で轢き殺しているという極悪非道の凶悪犯なのです。何としてもそいつらがどさくさにまぎれて逃げるのを阻止しろとのお達しが……」

 最後の方は、もはや申し訳なさそうに話しているのが分かった。

「そ、そんな……」

 男性は打ちひしがれたように、がっくりとその肩を落とした。

「力添え出来ず申し訳ありません、ここから一番近くの病院をお教えしますので宜しければ……」
「い、いや……病院では――駄目なのです。ある場所へ行かないと娘は……」

 悔しそうに男性がかたくその両目を閉じた。

「――そういえば」

 ややあってから、何か思い出したように若者がそこで話題を変えた。その表情はまるで何かを訝るかのようなものに切り替わっているのが分かった。

「その逃走中の犯人二人組って、確か若い男女で……一人は腕にタトゥーが入っていた、とかいないとか……? ハテ?」

 待てよ、その特徴は誰かさんと一致するのではないか……? それで一斉に視線がお約束通りに例の二人組へと注がれた。

「え゛っ……」

 チンピラの顔からすっかり血の気が失せている。今の「え」は明らかに動揺によるものだろう。

 これはズバリ、クロということで間違いないのだろうか。

 一身にその怪しむ視線を受けてチンピラはさっきまでの強気な姿勢とは一変してうろたえ顔だった。両手を上げながら、じりっと後ずさって行く。

「し、知らねーーーよ! イレズミぐらい誰だって入れるじゃん? それだけの事で、何で俺がうた、疑われなきゃなな、なんねーのォ?」
「車に血痕発見」

 すかさず創介がその改造車に付着した、返り血と思しきものを発見して指差したのだった。

「そそ、それはゾンビの〜、あー、うー、えー」
「アンタぁああっ!」

 途端女のけたたましい声がした。女は勇ましくもどこから調達したものやらオートマチックの拳銃を両手で構えている。

「バレちまったらしょうがないわよっ! もうこいつら全員皆ごろ……」

 金切り声で女が全て言い終えぬうちに、セラがすかさず視線をきっと女へと向けた。と、同時に軸足を返して上段への蹴りを繰り出していた。セラの回転の勢いを伴った爪先が女の手首を素早くとらえ、拳銃が横手に吹っ飛んだ。

 あっ、と女が喚くが構わずにセラは半身の捻りを利かせてもう一発、蹴りを回しこみかけた。

「ひぃいやめてぇええ! アンタ、あたしは女よぉおっ! 男が、おおおお男が女を平気で殴るって言うのーー!?」

 その顔を守るようにして庇いながら女が絶叫した。

 それでセラがぴたっと、ほぼ寸前でその脚を止めた。普段から表情の分かりづらいセラではあるが、その顔は明らかに狼狽している。――やはり悪人とはいえど、確かに相手は非力な女性なのだ。


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