07-1.家族ってなに?
セラがぐっと唇を引き結んで躊躇している隙をも、女は持ち前の狡猾さゆえに見逃しはしなかった。したり顔を見せるや、女は吹っ飛ばされた拳銃を再び手繰り寄せていた。
「……ぎゃはは! なーんて言っとけば大抵の男なんざァ」
「――じゃ、悪いけど私は女よ? その理屈でいくなら容赦しない事になるけど」
完全に勝利を確信した筈の女の後頭部にごつっ、と硬い感触が当たる。すぐにイヤーな汗がつうっと額から伝い、するすると滑り落ちて行った。
「言っておくけど、モデルガンじゃないから。あとエアガンでもないわ」
ナンシーが更に銃口を女の後頭部に宛がうと、女はヒィッと今度は演技でもなさそうな悲鳴を小さく洩らした。
そうしている間にも、ミミューが機を逃さずに動いていた。腕をしなやかに躍らせたかと思うと裏拳を繰り出してチンピラの顔面めがけて一つガツンと食らわせた。それから、ふらついたチンピラの腕を掴み取っていた――やはり見てくれだけで腕っ節の方はてんで素人みたいだ。このチンピラ。
腕を決めておき、ミミューはそのままチンピラを捻り上げる。
「いでっ、いでででぇえ! て、てんめー強いんならそう言いやがれ卑怯ッ!」
「ハァ……。あなたのような人がいるから全く、世の中の治安が一向に良くならないんですよ」
ギリギリとチンピラの細っこい身体が締めあげられるのとほぼ同時に、創介が何か異変を感じ取ったらしい。ふっ、とその異様な気配に創介が視線を動かした。
「今……」
呟きながら創介が辺りを見渡している。
「あ、あの……すんませんがっ」
それで、創介が茫然と立ちつくしていたその眼鏡の男性に問いかけた。
「――悪いんですけど娘さんって……怪我、ってぇのはえぇッとぉ〜……」
それは実に嫌な予感であった。この数日のうちに嫌でも身に沁み込まされた勘が何かを訴えかけたのかもしれない。創介は自然とその疑問を口にしていた。男性はそれで少し戸惑ったようだったがやがて静かに、その唇を開いた。
「ゾンビに……引っ掻かれて……」
絞り出すように吐いたその言葉が、創介たちを一気に悪夢じみたこの現実へと引き戻したようだった。
「――っ、そ、それって!」
血相を変えて、まずは創介がばっとその車を覗きこんだ。――いない。それまで青ざめてそこに横たわっていた筈の娘の姿が、どこにもない。視線を忙しなく動かすが車内にはもうどこにもいないようであった。シートに残された血痕が、少女の傷跡の深さを物語っているようで――となると、次に用意された展開と言えば一つしか無かった。
「アンギャアアアアアッ〜!」
その展開が読めていながら、一歩遅かった、と言うべきか。若者の背中にしがみつくその影は彼の耳の齧りついていた――一気に、食い千切った。真っ赤な鮮血がびゅうびゅうと勢いよく弧を描いて噴き出している。
「うあ、あああ! ちくしょうこんのガキャぁ……み、耳が――俺の耳がぁあっ!」
背中にしがみつく少女と、失われたその自分の耳をまるで信じられないものでも見つめるように交互に見比べて、若者は無くなった耳を押さえてもがいた。
「だから嫌だって言ったんだ! だからこんなとこ行きたくなかったんだ! だからあれほど、出たくないって、断ったのに、だからだからだから……」
必死に振りほどこうとするがゾンビ化した少女の腕力は凄まじく、その拘束を振りほどく事はままならないようだ。
「あ、ああ……優衣っ!」
異形の者と化してしまった娘を、それでも尚その手に抱き締めようと言うのか男性は両手を広げる。それを創介が慌てて止めた。
「も……もうあれは娘じゃなくなったんだよ、駄目だってば!」
「や、やめろぉ! 優衣に手を出さないでくれ……優衣を助けてくれ! 優衣! 優衣!!」
痛切な叫び声と共に、父親がもはや人間ではなくなった娘の名を呼んだ――創介がそれを必死に抑え込むが、今にも振りほどかれそうな勢いで父親は暴れて叫びまくったのだった。
ナイトオブザリビングデッドの
幼女ゾンビこえーよな。
面倒見てたカーチャンがガブっとされるところは
見てて鬱になったわ。
やっぱロメロは天才だと思います