前半戦


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02-1.死体と遊ぶな、子ども達



 山中にある辺境の村と言われるからには、ありがちな田舎の村みたいのを思い浮かべていたのだがそうではない。勿論、想像よりは遙かに新しいというだけで自分達の住んでいたような街と比べればそれは劣るのは確かだが。

「なんつーかもっとド田舎みたいの想像してたわ。木で出来たぼろっちい家ばかりが建ち並んでるの」

 凛太郎が周囲を見渡しながら呟いた。みんなまさしくそうだったので、その失礼な言い草をたしなめる者など誰一人いなかった。

 そういえば、あんなにヒドかった雨が今は止んでいる。代わりに霧は更に濃度を増しているし、足場はぬかるんで歩きにくいのには変わりは無いが。

「あっ、外国の隠れた避暑地みたいな感じじゃね? 霧さえなきゃ結構オシャレな感じするよなー、俺こういう雰囲気好きだ」

 先程まではあんなに嫌がっていた筈の創介だったがカントリー調の風景に興味を抱き始めたらしい。……しかしまあ、薄暗いこと。

 おまけにこの霧、そして恐ろしいほどの静けさ。天候がもっとごく普通であったならそれは創介の言うように『雰囲気のあるオシャレな村』として見れるのかもしれないが、生憎のこの有り様だ。もっとも、別の意味での雰囲気ならば十分漂っているが……。

「――……」

 有沢がふと足を止めたかと思うと背後を振りかえった。

「? どうしたんだ?」

 セラが尋ね、有沢の視線の先を追う。

「いや……何か、強烈な視線を感じたもので」

 有沢がそう言うがその視線の先にあるのはその生温い風に揺れる案山子だった。

 確かにその造形は、日本の田んぼで見られるような案山子というよりは西洋基調のデザインだったので少し違和感はあった。だが、そこから視線を感じるなどと……セラは不思議そうに顔をしかめた。

「何も無いよ」

 とりあえずセラはそう答えておいた。

 有沢はそんな冗談を言うようなタイプではないだろうし、ましてや驚かすためにそんな嘘を言う悪趣味さは持ち合わせていないように思う。まだ、知り合ったばかりで決めつけるものではないのかもしれないが。

「そうか。――ならいい、俺の勘違いだ」

 言うならば、『オズの魔法使い』の案山子に近い見た目だった。――そんな事、どうでもいいかもしれないが。しばらく見入っていたが、セラはふいっと案山子から背を向ける。

「……きゃっ」

 今度はナンシーが悲鳴を上げて隣にいた創介の腕にしがみつく。

「っ?」

 凛太郎がナンシーの足元をくぐり抜けて行ったその影を追った。

「……何だ、ネコちゃんだったのね」

 霧の中から突如現れたのは真っ白な霧に相反するような、真っ黒な猫だ。黒猫が横切るのは、縁起が悪い。そんな話を思い出す。

 確かに昨日も、黒猫を抱きあげた瞬間に雛木に襲いかかられたのだからあながち嘘では無いのかもしれないが……。しかしながらナンシーに抱きつかれたのは嬉しいハプニングだ。創介はニヤニヤしながら何故かセラの方に振りかえってピースサインをしている。

「なっ……」

 ナンシーが声を上げたかと思うと、いきなりのように創介の頬へ鋭いビンタを食らわせた。

「へっ!?」

 パチンッ、と小気味良い音を静まり返ったその周囲に響かせる。

「な、何でぶつのぉーっ」
「――知らない!」

 股間は蹴られるし鼻にこよりは突っ込まれるし挙句この平手……、いややっぱり黒猫は縁起が悪いのかも。創介はヒリヒリと痛む頬を擦りながら苦笑した。

「何か聞こえる」

 一真が独り言のように呟くと、確かに何か歌声のようなものが聞こえて来た。耳を澄ませてみればそれは数名の子どものものだと分かる。澄んだ、綺麗な子どもの歌だ。何か、数え歌のようにも聞こえる。

 一同が足を進めるとその声は徐々にはっきりと、より鮮明なものとして聞こえ始めた。

「ぼくの子犬が逃げ出した。ぼくの子犬が逃げ出した」

 聞き慣れない歌詞を口ずさみながら、その子ども達はケンケンパをして遊んでいるようだった。こちらには目もくれず、全部で五人ほどいる子ども達は遊ぶのに夢中だ。

「満月の夜に子犬は逃げ出した。子犬は月を飛び越えて、逃げてった」
「だけど子犬は捕まった。月夜の晩に、捕まった」

 その横を通り過ぎながら、セラが呟いた。

「何だか気味の悪い歌だな……」

 肩を竦めながらセラが言う。セラがこんな事を言うのも何となく珍しい気がした。多分先入観がそうさせているだけで、実際にはよくあるわらべ歌にしか聞こえないのだが。

「ありゃヤベェな。確実にやべえよ」
「? な、何が?」
 
 凛太郎がどこか底意地の悪そうな笑顔と共に呟いて、ちょっと逃げ腰の創介を見た。

「ホラー映画のお約束ってやつだぜ」
「はぁ?」

 それにしても子ども達はこうやって外に出て遊んでいるのに、どうしてこんなにも静まり返っているのだろうこの村は。昼間から何と言うか、不健康な村である。

「さっきの子どもを除いたら、人一人見当たらないね」

 ミミューが呟いた。

「みんなして引きこもってんのかなァ。さっきまで雨ひどかったし」

 続いて創介が何とも脳天気な事をぼやくが誰も拾おうともしない。一真がふっと顔を上げると、一軒家の二階の窓からこちらをじろじろと無遠慮に眺める人影と目が合った。

 シルエットだけで男なのか女なのか、はたまた若者なのか老人なのかも分からぬままにその影は目が合うなりにシャッ、と遮るようにカーテンを閉めてしまった。

「……」

 一真がそれを不思議そうに眺めるが特に何も言わずまた前を向いて歩きだした。

「みんな家にいるにしたってさ、さっき車を囲んでたあの不気味な連中たちも一気にいなくなっちゃったのなー」
「こら、声が大きいぞ……失礼な事をあんまりデカイ声で言うな」

 いつものように、セラが創介を叱り飛ばした。





あやしい村あるある。
サイレントヒルなようなインスマスのような
羽生蛇村のような杉沢村のような
あしかり村のような雛見沢なような
何かそういうのです。
海外モノで案外こういう村系って少ない?
変態村とかもあったけどあれは
変態というか狂人だらけの村でしたね。
レイプゾンビに続く妙なタイトルですわ。



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