14-2.極めて近く、限りなく遠い世界
あらゆる部位にガラス片を武装した顔だけならば可愛らしいその化け物と、対するこちらはもう見たまんま化け物のでかい図体をした巨漢。
人外と人外による、血と臓物が踊り狂うバトルが始まったのであった……。
「お父様、詠唱を続けて!」
人形とは思えぬ声量と鬼気迫る形相で叫んだかと思うと、小夜がうろたえている老人へと振り返った。小夜はその儀式用のものであろう短刀を一度床に置くと、それから腰に下げてあった金属製の筒のようなものにスッと手を伸ばす。
小夜がそれを手にし、一振りすると末広がりに鉄製の板が優雅に広げられた。鉄扇、と呼ばれるものであろう。美麗な装飾が施されているが、形状から言って彼女の武器なんではないのだろうか?
それで我に返ったよう、老人が再びその両手を仰々しく広げるのが分かった。
「っ……! い……イアール、ムナール、ウガ、ナグル……」
「あ、こらジジイ! 畜生、お前らあのジジイ止めるぞ!」
「え――、で、でも」
創介の声に凛太郎は戸惑ったような顔をさせたのであった。どことなく後ろめたさの漂うような顔つきで、凛太郎は驚いたように目を見開いていた。
「何だよ、やっぱ逃げるか?」
「ち、違う! そうじゃねえけど――ああもう、分かったよクソ!」
否定しながら叫び、凛太郎はメイド達の置き土産である武器をさっと拾い上げた。
「……とっとと終わらせるぞ、こんな茶番! おい一真、おめえも一緒に行くんだよ馬鹿ッ」
創介も創介で落ちていた火かき棒を手にした瞬間だった。
――何だ? やっぱりどこかで……
声が聞こえる、ここにいる人間ではない別の何かによる声が。創介がその要因を探るみたいにして静かに腰を持ち上げた。
その声は何だか、ひどく消え入りそうで、そして誰かに何かを求めているかのような感じがしたのだが。
「まただ……」
「お、おい創介!? 言い出しっぺのテメーが何ふらふらしてんだよ……創介?」
凛太郎に背後からどやされたが、創介はそれを聞き逃しちゃいけないような気がして息を潜めて辺りを見渡した。傍目から見れば何かに取り憑かれたのか? とでも誤解されそうだが、創介は夢遊病患者の如くフラフラと部屋の中を歩き始めたのだった。
「ちょっ……創介! そういう変な真似やめろよ! じょ、ジョークとかそういうの今はいらねえしな!?」
「ちげぇよ! 確かに聞こえるんだよ!」
「だからさっきからお前何言ってんだよ。聞こえるだの声だの……」
勿論、聞こえていない人間からすれば自分の行動は単なる異常者でしかないのだろうが。だが、創介はもう一度息を潜めた。耳を澄ませた。声、というよりは音のような、漂う空気に混ざって流れてくる気配のようなものが。
そしてそれが、はっきりと誰かを探して――いや、助けを求めているのか? 微弱だったそれが次第に聞き取れるようになり、創介はあっと息を呑んだ。
「セラ!!」
「……はぁ?」
「セラか? セラの声……だよなぁ!?」
「ちょ、マジでイカれたんじゃねえのこいつ……SAN値が減ったか?」
凛太郎がはっきりとキチガイを見つめるような目つきでこちらを眺め、その横ではやっぱり一真が危機感に欠けた顔つきで佇んでいる。
創介はもう、訴えたくてしょうがないのだけれども伝わってくれないもどかしさにやきもきとした。
「嘘じゃねえよ! 今、確かにセラの声っつーか気配っつーか、あ〜もう何だろう!……とにかく近くにいるのは違いねえ……けど一体どこに?」
きょろきょろと創介はもうすっかり異空間と繋がってしまったのであろう禍々しい室内を見渡した。凛太郎はもう相手にもしたくない、といった具合に創介から背を向けた。
「クッソ、これ以上ここにいたら俺まで永久的狂気に陥ってしまうぜ。とっとと早いトコ始末してやるよ、クソジジイ!」
こちらは山羊男よりも小さなハンディサイズの手斧で、凛太郎が駆け抜けようとした瞬間であった。そんな凛太郎めがけて恐ろしく機敏な動作で一気に間合いを詰めてきたのは鉄扇を手にした小夜であった。
「うわぁ!?」
慌ててその扇子の一撃を下段にて受け止めたが、その女性のソレとは言い難い圧力に思わず怯みそうになった。鍔迫り合いとなってしまったが、これが馬鹿みたいに強い。見た目の華奢さからは想像もつかない腕力である。
それによく見ると、扇子の先には刃物までご丁寧にしこまれているようで、受け止めている斧の柄の部分に突き刺さっている。
「……くそ、分が悪すぎるぜ!」
あと、個人的にだが初恋にも似たあの淡い感情を抱いた『彼女』に似ている相手だというのも凄く気がかりなのだが。
友達とTRPGセッションすると
大体みんな映画好きなので
台詞が洋画口調(もしくは戸田奈津子字幕風)で
しかも顔写真がみんな推しのハリウッド俳優と化す。
クトゥルフゲーといえばラプラスの魔も
結構ハマったがクソむずくて……