前半戦


≫top ≫▼title back

10-1.鬼畜のススメ



雛木と創介はその不気味な室内を一通り見て回ったものの結局解決に至る決定打というか、この屋敷の謎を解くカギは見当たらなかった。

「うっう、気持ち悪くなるだけだったな……ォエ〜ッ」

 創介が依然込み上げてならない吐き気を必死に嚥下しながら、涙目で呟いた。

「まあ……、やっぱりキナくさい連中だったってことだね。村ぐるみなのかな?」

 雛木が腕組しつつ、片手の指先を顎に当てながらアレコレと推理するが明確な答えには行きつかない。創介は一刻も早くこの部屋を出たくて仕方なさそうだが……、ふと、廊下が騒がしくなったので慌てて雛木は創介の手を引いて身を引っ込める。

「な、なんだ?」
「静かにっ。……誰か来る」

 雛木が人差し指を当てながら小声で言った。

「はーなーせーよぉっ!」
「え」

 聞き覚えのある声に、まずは創介が目を見張った。

「どこに連れてく気だ、このやろーーー! 俺にこっちの趣味はねえんだ糞ぉおお!」

 まだ声変わりして間もない感じの、あどけなさの残るその声を上げるのは凛太郎だった。凛太郎は縛られた状態で、メイド達にずるずるとまるでモノのように引きずられている。

 凛太郎だけじゃない、一真も、その団体と間を置いてまるで物のように扱われて引きずられているようだった。凛太郎とは違ってこちらは随分と嬉しそうな顔をしているのはまあ置いといて、とにかく尋常でない事が起きているのは確かだ。

「きぃいーてんのかこんのボケどもッ、クソアマがぁあ! 拳突っ込んで掻きまわしたろうかこの雌豚どもがぁ!」

 いやはや、彼らの親が聞いたら泣きそうな汚い言葉を吐きながら凛太郎は唾を吐いている。そんな罵詈雑言は当然のように無視して、メイド達は蝋燭片手に先程の地下室の前に集結した。地下室の扉の前に立っているのは……あの小夜と呼ばれた黒髪のメイドだった。

 小夜はメイド服ではなく、黒いケープを羽織り、ゴシックロリータ風の黒ドレス姿と全身黒の姿であった。更に、頭にはヘッドドレスを被り、顔全体を隠すようなベールが掛けられていた。喪服のような黒衣が何か不吉じみちゃいるが、一体何をするつもりでいるのだろうか? そして小夜の手には、何か儀式で使うような豪華な装飾をされた短刀が握られている。

 小夜とメイド達は何やら話しこんでいたがその会話の内容までは聞こえず、そのまま地下室へと入り込んでしまった。

「……あ、あれは……一体?」
「何やらヤバげな事態になってんな。……はー、めんどくさいったらないよ。どうも他のメンバー起こしに行ってる暇は無さそうだね」

 雛木がふーっとため息を吐いて髪をわしゃわしゃと掻いた。創介が何だか意外そうにそんな雛木を見つめるので、雛木が「何?」とちょっと不機嫌っつらで返した。

「え、いや……何か意外。見捨てそうだなって思ったんだけど」
「じゃ、希望どおりに見捨てよっか」
「いやいやいや! 別に希望してないから!」

 慌てて創介が雛木のモチベーションを損なわぬように必死に取り繕うのだった。セラといい中々扱いに困るところがあるが、まあ、創介は何だか嬉しくなった。

「おい、創介。武器取りに戻る余裕もない、コレ使え。……って何だよ、ニヤニヤすんな。キモイ」

 言いながら雛木がずいっと差しだして来たのはこの部屋で見つけたものだろう肉切り包丁だ(おまけに血付き)。うろたえつつも受け取ると、それは中々に重たかった。威力はありそうだが人形達と渡り合えるのかまでは不明だ。

「あ、あのぉ……」
「はーぁ。何が悲しくて食えないヤツらなんかと戦わなくちゃいけないんだろう、まったく。よ、っと」
「いやいや雛木さん……コレで俺が戦うの? 無理ゲーじゃね?」

 頼りなさげに呟く創介などは無視し、雛木が立ち上がるとウォーミングアップのつもりか軽い準備体操を始めた。創介は肉切り包丁を握り締めながらぼーっとそれを見守っていた。

「じゃ、さっさと行くよ。本当は面倒くさいし人助けなんかしたくないけど、今回に限っては僕が助かる目的も含まれているからね! 特別だよ」
「ま、マジか……女の子相手にやれるのか、俺」
「人間じゃねーんだよ、あっちは。襲われたらそん時は躊躇せずにブチ殺せばいいだけだよ」

 そしてやっぱり可愛い顔と声をして、雛木があっさりとそう言い放つのだった。頼りになるけど、やっぱちょっと怖いです雛木さん。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -