前半戦


≫top ≫▼title back

09-5.殺戮人形、始動



 セラがその壊れかけのスマホをモッズコートのポケットへとしまいこむ。まだ信じたわけじゃないが、持っておいても損はないだろう。

「セラ君、行こう。みんなの状態も気になる」
「ああ……」

 ミミューの言葉に頷くのと同時に、二人は部屋の扉を開けて廊下へと繰り出した。廊下には既にあまり嬉しくはない先客達がぞろぞろと待ち構えている……。

「うわ。相当いるね〜……」
「だったら、全て倒しきるまでです」

 武装したメイド軍団を筆頭に、先程の村人達も一緒になって押し寄せるようにゾロゾロとこちらへと向かってくる。
 まずは出刃包丁を振りかざしてきた、先頭のメイドの一振りをかわし、ミミューは背中のがら空きになったメイドの背後に腕を持ってくるようにして拘束する。次いで向かってくる紙袋を被り、下はぼろぼろのズボンのみの大男の鳩尾に前蹴りを叩き込んだ。同時に拘束していたメイドを横手に放り投げた。

 紙袋男が大柄なその身体で倒れれば、当然後ろで控えていた村人達もドミノ倒しのようにして倒れてゆくのである。

「……セラくん、後ろもだ!」
「!?」

 どうやら挟みうちの状態である。通路の左右から、ある意味ゾンビよりも厄介な集団がせめぎあっているのが見えた。そいつらはゾンビよりもいささか早い移動速度でこちらへ向かい移動し、そして見事に迫ってくる。

――こっちは僕が相手するしかないか……

 セラが腰を落とし、軸足を下げつつ下段で払いながら構えを取った。覚悟を決めた瞬間、すぐ傍の部屋の扉が勢い良く開いた事で村人の何人かがそれにぶつかって派手に倒れたのが分かった。

「あ、有沢!」
「すまない、遅れたな……」

 勿論計算のうちなのだろうけど、不運にも扉が命中してボーリングのピンよろしく倒れる数人の村人達。無表情、無言で倒れていくそのサマはどことなくシュールで笑いを誘うが、すぐさまその村人達を踏んづけてずんずんと殺気を纏わせて迫ってくるのは武装メイド集団である。どちらかと言うと、こちらの方が厄介そうだ。
 
「おぉおーっ、有ちゃん! こっちから呼びに行く手間が省けて何よりだ!」
 
 仲間が一人増えたところでピンチな状況にはあまり変わりは無いが、ミミューが極めて明るく叫べば有沢はいつもどーりのポーカーフェイスで応対だ。焦っているんだかそうでないんだか、ちょっとよく分からない。

「……むんぎゅっ!」

 そうしている間にも呻くズタ袋やらバケツを被った村人を構う事無く高級そうなブーツで踏んづけつつ、メイドさん軍団はおっかない顔で、同じくおっかない武器を手にずんずんと距離を詰めてくる。
 まばたき一つしない彼女達の整った容姿は、月明かりの下で見るといっそう妖艶に見えたがこの状況ではあんまし嬉しいものじゃない。ただただ、恐ろしいだけで。

 ガラス片を手にしてふりかぶってきたのは金髪ツインテールのロリっ娘メイドだった。背の高さはセラと同じくらいであるが、その一撃には躊躇いや遠慮が一切無く、当然殺す気(と、言うのは相応しくない言い方だろうか? 彼女達の意思でそうしている、というよりも誰かにそうインプットされているような動きである)で向こうは攻撃してきているわけで。

 セラは屈んでそれをよけるなり、メイドさんのエプロンを両手で掴んだ。ほつれかかったそのエプロンを、女の子相手にちょっと抵抗はあったが腹を蹴り飛ばして完全に奪い取るとエプロンをムチのようにしならせてメイドさんの片腕へと縛り付けて封じたのだった。
 エプロンに腕を取られた挙句、ガラス片の直撃を無効化したところでセラは巻きつけたエプロンを今度は強引にそれを引っ張り解いた。悪代官様と女中よろしく、帯び回し状態で帯の解ける方向にクルクルクルとメイドさんの身体がその場で回転した。

 無口・無表情の彼女はノリ良く「あーれー」とは言ってくれないが綺麗に半回転し、セラもその場で勢い良く回転して飛ぶとメイドさんの顔面めがけて飛び蹴りを食らわせたのだった。

 当然その一体だけでその場を食い止める事にはならず、今度はセラの背後からやってきたのはぼろぼろのアルミバケツをかぶった男だった。バケツ野郎はセラに後ろから抱きつくが、セラは慌てずにその状態のまま自由の利く脚のみで襲い掛かってくる村人を蹴り飛ばす。ついでに背後の奴は、その状態からの後ろ蹴りで引き離しに成功した。

「……クソ、数が多いなそれにしても! 困ったちゃんだよ全くもうっ」

 ミミューの声に有沢がいついかなる時も物静かなその声で賛同するのが分かった。有沢も有沢で当然戦い慣れしているのであろう、一筋縄で倒れるような事はない。鞘と刀を操りながら、着実に裁いていく。
 
 流石はあの不死のバケモノ雛木くんと渡り合ってきただけある、という腕前か。有沢は刃だけではなく、鞘を器用に操り振り向き様、左官ゴテを手にする男の股間に鞘での一撃を食らわせる。

 男がドサ、と倒れたのを最後に、とりあえずその場は片付いた。と、言ってもほんの一時の事にしか過ぎないだろう事は察しがついたのであまりそれを喜んでいる暇はなさそうだ。

「やるねえ、あっという間に片付いちゃったよ!」

 ミミューが極力、心を許してくれそうな笑顔を浮かべつつ有沢に話しかけてみる。正直なところ、彼はまだ未知な部分が多いので接し方に関しては完全に手探り状態なんである。

「ああ――だが、そうゆっくりしている暇もなさそうだな」
「有沢……、雛木は?」

 セラの問いかけに有沢が静かに首を横に振った。



セラ君と言えば軽量級アクションだよな。
と、思いセラキュンの出番が増量。
やっぱちっちゃい子のアクションはええもんやで。
実際にはパワータイプを前にしたら
小さい子なんていとも簡単にやられるんだけどな。
悲しいけどそれが現実ってもんなんだけど
でもやっぱりチビッコファイトに夢を見ていたい。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -