09-2.殺戮人形、始動
「今――」
ミミューは既に目覚めているようだった。
「……銃声がしたね」
その声に同調するよう、セラがひとつばかり頷いた。同時に、自分の隣にある空白になったベッドを見つめながら呟く……。
「……創介がいない……」
「えぇっ、何だって!? それは参ったな――探しに行かなきゃ」
ミミューが慌ててベッドの上の布団をめくると確かに創介の姿が無い。布団の下に手を潜り込ませると、まだほんのりとだが暖かい……という事は、ここから出て間もないのだろうか。
「ああ、それと……今の銃声は多分、隣の部屋からだよね」
「ナンシーちゃんのところからだったみたいだね。……うん、先にそっちを見てからにしようか……創介くんも遠くへはいっていないだろうし――、っ!?」
ミミューがさっと布団を元に戻した、その瞬間であった。部屋の中にある、ゴシック風の三重窓。明るいうちはそこから荒涼とした山奥の風景が見渡せたのだが、今やすっかり陽が落ちてしまい周囲を暗闇が支配しているのが分かる。……ミミューを戦慄させたのはその闇の中で蠢く無数の影。
無論、セラもすぐさまその異様な空気を察知した。
「なっ……!?」
「くそ、ゾンビか――」
普通はそう結論づけるが、すぐに違うと感じた。何か、おかしいのだ。
窓に張り付くそいつらは、みんなして手に松明や蝋燭等を携え、あまつさえ各々が鋤や鍬等の農具――勿論、こんな夜間に畑を耕そうってんじゃない事くらいは分かっていた――を装備した状態なのだ。
見た目だけならばゾンビというよりも、普通の人間に近い気がする。まあ、ちょっと目がいっちゃってる気がしないでもないけど。
「なっ……こ、こいつらは一体……?」
「神父、あれって――!」
セラが何かに気付いたようで窓の向こうを指差せば、先頭で金槌を持った人物に見覚えがある事に気がついた。
「あ、あぁあ! 昼間の食堂にいた……ッ!」
顔色が悪いと称されたその女性は、今やその両目をかっと見開いて、丑の刻参りよろしく白装束に身を包んでおり、ざんばらに乱した髪の毛、昼間より更に青白いのはその顔面に塗りたくられた白粉のせいだろうか?
口の端に乱れた黒髪の先と五寸釘を何本か咥えて、女は窓ガラスを片手でぎいぎいとうらめしそうに引っかき続けている……。
その隣には、明かりのついた棒状の懐中電灯を二本ばかりを鬼の角の如く鉢巻で結び付けている老婆が片手に鎌装備で世にも恐ろしい唸り声を漏らしているのだ。
言うまでも無くこちらの老女は、同じく食堂にて奇声を上げていたあの『震えババア』だろう。
「こ、こっわ……何だありゃ、もはや鬼女じゃないか。どうやら僕はつくづく女運のない男らしいよ、セラ君……」
「……!」
苦笑いを浮かべて冗談を吐くミミューの隣で、セラが新たに何かを察知したようだ。セラはミミューの台詞を拾う事無く、その発見に近づいたのであった。
「え?」
しゃがみこむセラにミミューが問いかけると、セラは部屋の隅にあったアンティーク調の置時計の裏へと手を滑り込ませている。
セラよりも背の高いその置時計の裏側に、何か異変があるのだという事か。セラが引っ張り出したのは――ぼろぼろの、ひび割れたスマートフォンだった。セラの手に渡ったその半壊したスマホはもうほとんど廃棄処分レベルにも関わらずに呼び出し音のベルを流し続けている。
どうやら、その音にセラが気付いたようだった。
「そ、それは……? いや、スマホなのは分かるけど随分とぼろっちいね。大分時間が経って朽ちているように見えるけど。でもそれ、最新のモデルだよね。朽ちるにはちょいと早すぎないかねぇ」
「液晶は壊れてて駄目だ。でも、一応機能はしてるんだな」
「……どうするの?」
ミミューの問いかけに、セラが一瞬考え込むみたいに目を丸めた。が、すぐに『出るのか、出ないのか』を問われているんだと理解した。
すぐ外では、亡者の如き村人の大群が今にも頑丈な窓を蹴破りなだれ込んできそうな勢いなのだが――幾分か迷ってセラは、吸い寄せられるようにその電話に出た。
「もしもし」
『――、っ……し……、もし!』
先の出来事を思い出し、また妙なノイズでも流れてくるんじゃないかと身構えたが、どうやら電話の向こうにいるのは一応きちんとした人間のようだ。
声は途切れ途切れにであったが、ブツブツと細切れながらにもこちらへの呼びかけを続けたのであった。
『シ……なのか!? おいッ!』
「え――、あ、あの! すいません、よく聞き取れなくて……」
『クリスは無事かい?』
聞き慣れない人名に戸惑ったが、相手のどことなく片言気味の喋り口調から日本人でないような気がした。
「す、すまないんだけど。僕はこの電話の持ち主じゃないんだ、偶然、部屋で鳴っているのを見つけただけで!」
『……な、何だと? じゃあ、君は――』
「ごめん。今ちょっと非常事態だから切る……」
『ま、待ってくれ!……という事は――つまり――、』
電話口の向こうでその主は、何やら海外らしい流暢な英語でショックを受けているとの主旨であろう言葉を漏らした。
『クソ……、やはり平行世界の影響を全く受けないのは難しいというわけだ、じゃあ二人は今頃別の世界、か……?』
「あ、あの……悪いんだけどそろそろ切らせてもらえるかなぁ?」
何だか話がこんがらがってきた。おかしな方向に巻き込まれぬうちに、セラは早々に切り上げようとしてみる。が、電話の主はそうもいかないとばかりに声を荒げた。
『ご、ごめん。俺はロジャーというんだ、君は?』
「え……あ、ぁあ、その、セラですが」
色々と把握できないままにとりあえず自己紹介してみると、それからロジャーと名乗った胡散臭い男は勝手に話を続ける。
『そうかい、セラ。――君はこの電話を部屋で拾った、といったね? ちなみにどんな部屋だい?』
そんなのゆっくり説明している暇なんかないんだが、と突っぱねてやろうとした時だった。
『手短に言うよ、その場所は……魔力の影響を大きく受けている。……いわば、強力な魔力同士によって歪んだ世界だ。平行世界同士が繋がってしまっているんだ、魔力によって!』
「……ハァ?」
なんなんだろ。危ない人だろうか、この人。
面白いからロジャーのキャラは変えない
俺とかいってるしwwww
数年越しにキャラが変わりましたねロジャーさん