前半戦


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06-3.飲むなら吐くな・吐くなら飲むな



「……ふー、美味しかった。最近ほとんど食べれなかったのもあってか久々に腹いっぱいだ〜」

 創介が一つ伸びをしながら、満腹感ゆえか襲ってくる眠気にあくびを一つした。

「――霧も少しずつだが晴れて行ってるね。このままいってくれれば明日にはもう下山出来そうだ」

 ミミューが窓の外を眺めながら呟いた。

「そう上手い事行ってくれるかねー、これは多分惨劇の夜の幕開けだぜ……?」

 ひひっと付け加える様に笑って凛太郎が邪悪に言うが、それに怯えたような顔をしているのは創介のみだ。

「ま、またそんな事で俺を怖がらせようとするんだから、んもう」
「いいか! 死亡ルールその一だ、変な物音を聞いたり変な物を見ても近づくなよ。バレないように近づいてるとしても、向こうはとっくにこちらの存在には気付いてるんだからな〜」

 脅かすようにワントーン下げた声色で凛太郎が言う。創介は半笑いであしらうが内心ちょっぴり怖かったのは誰にも内緒だ……。

 それから食堂でこの先どうするかそれから話しあったのだが、結局は明日からまた始まるであろう長旅に備えて早々就寝する事で意見が一致した。

 それぞれが部屋へと戻ろうとするさなかで、凛太郎がしつこく創介に叫んでいた。

「創介、いいかー。鏡は絶対に見るなよ! 顔を洗ったりして上げたら自分の背後に……」
「あーもーアホくせえ! おしまいおしまい! さっさと歯磨いて寝ろよチェリー兄弟の長男がっ!」

 創介が吐き捨てるかのように凛太郎に言い放つ。

「誰がチェリーだコラ、ゲス野郎てめぇ!」
「おっめーだよ、おめー! ユー・アー・チェリーボーイッ!」

 実にアホらしい口論の末、取っ組み合いの喧嘩を始めた二人をよそにしてセラは何だか浮かない顔をしている。

「セラくん?」
「あ……、神父」

 ミミューに声を掛けられてセラが顔をちょいとだけ上げた。

「何だか……この屋敷に来た辺りからずっと沈んでないかな。気のせいかい? まさかどこか具合悪い? 薬、少しなら持ってきてるけど……」
「あ、い、いえ――その、大丈夫ですから」

 そう言ってセラは遠慮するように少し笑って首を横に振った。本人がそう言うのなら――とミミューもそれ以上追及はせずにおいた。

 どこか呑気な彼らの姿を、じっと監視するように見つめる影があった。

 言わずもがな、例の老人なのだが、彼らは当然その視線に気付く筈もないのだった。


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