前半戦


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06-2.飲むなら吐くな・吐くなら飲むな



 セラが部屋の扉の前に立つのとほぼ同時に響いて来たのは、創介の馬鹿笑いだった。

「ぶっは!!!! 神父の永ちゃんマジ似てねえ超受けるーーーっ!」
「……」

 扉の向こうにまでガンガンに響いてくるその声に(本当によく通る声である……)呑気に何やってるんだか、と呆れを通り越して感心しそうになってしまった。幾分かその扉を開けるか迷ったのち、セラが決心したようにその戸を開けたのだった。

「……おい、呑気に何やってるんだよ」
「うぉおおお!? 座敷童子ぃいい!?」
「は?」

 こちらの姿を目に留めるなりに失礼な絶叫を上げる創介に、セラが眉根を思いっきりしかめたのであった。
 
「……って、何だセラかよ。あー、びっくりしたー。そういや双子ちゃんは? あと有沢達も」
「いや、門前払いだった……。有沢は一人でいるって」

 言いながらセラが首を横に振った。

「えー、みんな一人が好きなんだなあ。こんな時こそ一緒にいればいいのに」

 ミミューがどこか不満げに呟いて、それから依然霧に包まれたままの外の世界へと目をやった。

「……しかしこの霧はいつまで続くのかなあ。――参ったね、あまり時間も無いのに」
「ええ……、とりあえず今日一日様子を見て引かなかったら、もうこの際強行突破してでも……」

 セラが眉間に皺を寄せて、実に険しい顔をしながら言った。どこか切迫感の感じられるその言い草に、ミミューも不思議に思うがあえてか深くは問いたださない。

「あー……しかしおっかしかったな、神父の物真似。やべえ、またじわじわ効いてきた」
「ちょっとー、笑いすぎだよ創介君ったら」

 霧が薄まったかと思えば今度は雷雨だ。室内に閃光が走ったかと思えば、今度は凄まじい轟音と共に落雷だった。

「うわー。今のは近かったかな」
「……凄い音でしたね」

 立ったままそれを静観していたセラが、言いながら腰を降ろした。

「なーっ、セラ、ちょっとほんとマジで神父の真似が……」
「うるさい」

 一言でばっさりと片づけられた後、セラはミミューの方へと向き直り今後の話を進めようと思った。が、それを阻むように部屋の扉がノックされる。

 ミミューが開けていいと促すと、扉の向こうから現れたのは例のメイドさんだった。こちらは髪の毛の短い、金色のショートヘアだ。やはり人形だけあってか、いっさいの血の気が感じられない透き通るほどに蒼白い肌である。同時にその見た目も、何だか浮世離れした美しさが感じられる。

 文字通りに人間離れした美しさだが、ちょっと怖い気もする。ぶっちゃけて言えば、創介的には性欲の対象となるような綺麗さではない。

「お食事の用意が出来ていますので、いつでもどうぞ」

 それだけを告げると機械仕掛けのメイドは再び扉をパタンと閉めた。今更なのだがどうやって声が出せているのだろう……? 人間じゃないと言ったばかりだが撤回して、本当はアレ、人間なんじゃないのか。

「メシの用意までしてくれたんだ。……っていうかそうこうしてるうちにもうこんな時間なんだな〜」
「……。果たして、食べても平気なんだろうか?」

 セラが怪しむように言うと、創介がからかうような笑い方をして口を挟む。

「何だよ何だよ。まさか双子の言った事気にしてんじゃねえの〜。ほれ、『ホラー映画で生き残る法則』だっけか!」
「――別に気にしてないけど、このくらいは基本じゃないか?」
「……まあ毒見係がいるから問題ないんじゃないのかなぁ、そこは」

 ミミューの言う毒見係とは多分雛木の事だろう。なるほど確かに……、言い方は悪いがアイツはそんな使い方も出来るのだ、何でもアリだ。ただ、あいつがちゃんと真実を言ってくれるのかどうかはちょっと怪しい部分はある。

 しかし腹が減っているのもまた事実だ、行かないのも失礼だと思いとりあえず三人は案内された食堂へと向かってみる事にする。

「あれっ」

 食堂に皆きちんと揃っているので、何だか意外な事のように創介が目を丸めた。

「何だよー、トランプしようって言ったら誰も来ないのに! すっげー盛り上がったんだからな。特に神父のエーちゃんが……」

 不服気に創介が洩らすと凛太郎が真っ先にはっと鼻の先で笑った。

「何だよエーちゃんって。ていうかこんな辛気臭い場所でのほほんと遊んでる場合かよ、ばか」

 毒見係なんて称された雛木もちゃーんとそこにいてちょっと安心した。やや機嫌の悪そうな顔をしている気がするのは気のせいなんだろうか? その後に、メイドさん集団と、例の車椅子のおじいちゃんが姿を現した。

 メイドさんによってその車椅子を押されつつ、老人はかすれた声で呟いたのだった。

「大したものじゃあございませんが……、どうぞ、召し上がって下さい」
「いえいえ、とんでもない。ありがとうございます」

 ミミューが小さく会釈しながら席に着くと、老人はまたメイド達を従えていずこかへといなくなってしまった。それにしても異様な光景だが、何だか今まで見て来た景色と比べるとインパクトは薄い。とりたてて突っ込みを入れるのも無粋だと思うくらいだ。

 皆、豪勢な食事を前にしたが誰も手をつけない。考えている事は一緒だ、一同はそれでじーーーーーっと雛木へと視線を注ぐ。妙な期待感を込めたような眼差しで。

「な、何だよ……!?」

 腕を組んでいた雛木がその降り注がれる視線にさすがにうろたえたような声を上げた。

「いや……、そのー……」

 少々言いづらそうにミミューが苦笑いをすると雛木はその形のいい唇をへの字に曲げて不審そうに見つめ返す。が、すぐにどうしろというのかを悟ったようだ。組んでいた腕を解放して椅子に座り直しながら言う。

「あー、毒見しろって。そういう事?」
「うん、そう。……駄目?」

 ミミューがにこにことしながら頷くと雛木は大袈裟なまでに大きなため息をついた。

「……はいはい。あーあ、脆弱な人間ってーのは悲しいもんだねー、こんな美味しいモンにもびびっちゃって」

 嫌味を言いながら雛木がまずは皿に顔を近づけてくんくんと匂いを嗅いでいる。それから傍らのフォークをやっぱり子どもみたいなおかしな握り方で取ってから、主食と思われるソテーに豪快に突き刺した。

 しかし、さっきも思ったがとにかくマナーの悪い食べ方だ。行儀の悪い食べ方の見本として、彼のこの姿を載せてもおかしくはないぐらいに全てが駄目だ。姿勢も、ハシの持ち方も、食べ方も……まあ、そんな事は置いといて。

 雛木はもぐもぐと肉を咀嚼してから、やがてごくんと飲み込んだ。

「んー……別に大丈夫じゃない? 今まで盛られたような毒の味はしないし」

 けろっとした様子で雛木が言った。今まで盛られたような毒の味、という表現回しも何だか末恐ろしい。果たしてその毒を飲ませたのは有沢なんだろうか、それとも他に……。

「ホントに平気かよ……」

 勘ぐっていた凛太郎だったが空腹に耐えかねた創介が雛木の返事を得るなりに食事に手を付けはじめた。

「……あ、これうんま! 何これ! 超ーーうまいよ、コレ! ふっつーに店で食べる味じゃん」

 口を押さえながら、創介がまんまると目を見開いて絶叫する。それに続くようにまだ疑念を拭いされないながらも、皆がナイフとフォークを手にどれとばかりに食べ始めた。

「えっ、マジで」

 凛太郎が驚いて目を見張る。

「凛太郎くん、例え無事に元の世界になったとしてもこの先こんな贅沢なもの食べられるとは限らないぞー。今のうち食べれるだけ食べておいた方が正解だと僕は思うよ」

 ミミューが真剣な眼差しで言うと凛太郎は椅子の背もたれに崩れ落ちる。

「お、おいおいマジかよー……信じられねー。なあ、一真……って一真も!?」
「凛太郎、これすんごく美味しいよ」
「ばっ、馬ッ鹿野郎……」

 そう言いつつも結局、最後には手を伸ばしていた。――おまけに全部平らげてしまったのだから、人間ってものは欲には逆らえないように出来てるもんだ。





斉藤工主演の映画で『ボーイズラブ』っていう
男同士の恋愛映画があるんだけど、
それを腐女子じゃない友人と一緒に見た時の
友人の感想というか突込みがすげえ面白かった。
「え? これってみんなホモなの?」(真顔)
確かにwwww
腐った目ではそれが当たり前の事のように
BLというものを見てしまうんだけど
普通の人からすると不思議だよな。
出てくる人間が何故かみんなして普通に男を好きになる世界。
それがボーイズラブの世界。
周りに可愛い女子がいようとも何故かみんなして
男を好きになってしまう摩訶不思議ワールド。
お前達は前世で一体どんな悪い事をしたんだ…?



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