02-1.暴走する二人の青春
かなりの荷物と人数の乗り込めそうなワゴンがそこには停められていた。
さっき創介が運転していたのはいわゆるワンボックスカー、もう一回りほど小さいものであったためか一層立派なものに見えた。
「さてと〜。じゃ、早速行きましょうか。街を抜けるには……」
「僕が道案内する。だから、助手席に座っても?」
どうぞ、とミミューが片手を持ち上げて指し示すと、セラは助手席に飛び乗った。次いで後ろのドアを開け、創介も乗車したようだ。
「あっ! シートベルトは絶対に締めておいて。……あいつらに襲われたら、振り切る為に急ハンドルとか切っちゃう可能性もあるから」
「了解」
創介が言われた通りにシートベルトを締めた。セラも返事は無いが、きちんとその通りに従うのだった。
「神父様神父様〜っ」
と、小走り気味に飛び出してきたエミだったが、ライフル片手にやってきた。何か伝え忘れた事でもあるんだろうか、とミミューが窓を開けると開口一番に言うのだった。
「忘れずお土産宜しくお願いしますね」
何となく予感はしていたが、まあ彼女なりに『生きて帰って来い』という遠まわしの優しさなんだと思う事にしてだ。ミミューはにっこり笑顔を崩さずに返す。
「……、エミちゃ〜ん。これは旅行じゃないんだからね」
「知ってますよ〜……――はいっ」
「?」
それからエミがミミューに手渡してきたのは……、拳銃のような外観をした一丁の武器。受け取りながらミミューは不思議そうに顔をしかめたのだった。
「ん? ハンドガンならもう所持してるよ」
「違うっすよ、神父ってばいっつも武器弄ってるくせにこれくらい分からないんですか? テーザー銃ですよ、弾丸ばかり使うわけにもいかない時くらいあるでしょ?」
「あぁ……」
テーザー銃、すなわちスタンガン銃というやつだが――確かにエミの言うとおりだ。相手がゾンビだけとも限らないし、そしてそれを拳銃でぶっ飛ばすのも考えものだろう。非致死性の武器も、持っておいて十分使い道はありそうだ。
「それもそうだ、ありがと。エミちゃん。帰ってきたらまた食事でも」
「りょーかい、しっかり覚えましたからね?」
二人のやり取りは何だか長い事付き合ってきたような匂いがぷんぷんとするのだが、でもそういう関係では決してないらしい。傍目から見ればど〜う見ても「こいつら出来てんだろう?」という具合なのだが。
ようやくエンジンがかけられて、エミに見送られる中で車は発進された。車の中が全て安全だと言うワケではないことを、全員知っている。
緊迫したムードは解けないままで、セラも創介もその手にしっかりと銃を握り締めたままだ。
ちなみに創介はさっきちゃんと、正しい拳銃の撃ち方(……の、ようなもの)を教えてもらったのだが――が、結局特別な訓練をされてない人間にはそれよりもリボルバーの方がイイんだとか言われて握らされたのは正式名称なんかほとんど知らない回転式の拳銃だった。
ただ、そのレンコン状のシリンダーはよく西部劇なんかで見られる形のものとおんなじだなあと思っていた。
まさかそんな物騒なモンを握る羽目になるなんて……何事も経験だとは言ったものだがこんな経験、正直言っていらなかった。
無事生きて帰れたら友人に自慢してやりたいもんだが、その数少ない友人も喪われてしまったのだと思い出してまた目頭が熱くなった。ヨシサキだけでなく、そうだ、父の事も気になる……果たして父は無事でいてくれるだろうか?
――いかん、また泣きそう……
まだまだ夜明けの来そうにない、夜に包まれた遠くの景色を見つつぐすっ、と鼻を啜っている時だった。
「……!」
ふと、ミミューが何かに気付いたのか緩やかにブレーキを踏む。先を急ぐなんて言っておいて、どうしたことだ……と創介とセラが顔を上げた。ミミューが視線で示した先には道路の真ん中、地べたに座って泣きじゃくるどこかの高校の制服姿の少年……。
「何だ? い……生きてる人間だよな?」
「多分ね――見過ごすわけにはいかない、ちょっと様子を見て来る」
ミミューは正義感ゆえなのか二人の意見等は耳も貸さずにさっさと降りて行ってしまった。こういう時、単独で出て言った奴が真っ先にログアウトしてしまうのがホラー映画の定番といやあ定番か。
一人ではやっぱり危険だと思い、二人も慌てて降りるとその傍へと近寄った。
「君、どうしたんだい?」
近づいてみると、座りこんだままの少年が泣き伏せていた顔を持ち上げた。
「お、お兄ちゃんとはぐれてしまって……ううっ、ぐすっ」
ひっくひっくと少年が泣きじゃくりながらそう言った。
「そうか――、可哀相に。どの辺でお兄さんとはぐれてしまったか分かるかな?」
ミミューが少年の肩に手を置きながら優しく問い掛ける。流石は本職なだけあってか、随分と慣れた感じで少年から事情を聞きだそうとする。
「わかんない……」
が、少年が首を横に振って再びめそめそと泣き調子になってしまった。
「とにかく車に戻ろうぜ、神父さん。話は中で聞いた方がいいよ、あんまり外にいるのも……」
こわごわと創介が辺りを見渡した矢先に遠くで拳銃の発砲音のようなものが二発、三発と立て続けに響いてくる。こんな状況がこれからもずっと続くなんて――ホントにもう、気が狂いそうだ。
創介が早く引き返すように催促するとミミューも同調するように頷いた。皆それに従ってワゴンへと戻って行き始めた。ミミューが少年に手を貸して立たせてやると少年もよろよろと立ち上がり、黙ってついてきてくれた。
ワゴンの扉を開き中へと滑り込み、とりあえず椅子に腰かけてからそのドアを閉めた。創介が背もたれによしかかりシートベルトを手にした瞬間――後ろから、誰もいない筈のその場所から、ぬっと手が伸びて来た。
「わひっ!?」
ミミューもセラも慌てて銃をすちゃっと構えた。……しかし予想していた事態とは、少々違っていた。創介の首筋に突き付けられていたのは鋭い刃……形状としてはランボーでお馴染みのサバイバルナイフのようだった。
どうやらゾンビでは無いとはすぐに分かったが――でも、ある局面ではもっと厄介なものかもしれない。ミミューは先のエミの言葉がすぐに現実のものになったんだと知り、内心で彼女に賛美を送りたくなってしなった。
一方で創介は顔を青ざめさせてがくがくと震えながら、両手を掲げてホールドアップの姿勢をとっている。ミミューもセラも、ほぼ同時にその違和感に気付いた。
「……?」
創介以外の二人とも、目を細めて訝るように犯人の顔を観察した。そして気付いた、その違和感の正体。
ナイフを突き付けているのは、何だか見覚えのある顔で……ミミューとセラがハッとたった今乗せた少年を見ると、全く同じ顔をしているじゃないか。……どういう事だ、二人いるって!? そんな馬鹿な、どんなマジックだ――と、一瞬考え込んだがすぐに思い直した。
「ふ、双子オチかぁ……」
乾いた笑いと共にミミューが言葉を漏らすのが分かった。理解するのとほぼ同じくして、ナイフを持っている方の少年が口を開いた。
「……銃よこせ。あと車も。運転出来ないから、操作できるヤツが残れ、後は降りろ」
それとこいつら顔は一緒なようだが、今しがたしゃべったナイフの方がどちらかと言うときつめな顔立ちをしている。顔立ちというよりも放たれるオーラというか、その喋り口調だとか、他人を突き刺すような何かがあった。
少年は元より鋭いんであろう目つきを更に険しくさせ、一同に向かって更に語気を荒立ててがなり散らした。
「――さっさとしろよッ! こいつマジで殺すぞ、あと銃も下げろよボンクラが!」
「ひいっ、ちょっ……イタタッ! きき、切れてるっ! ほっぺちょっと切れてるぅ〜っ!」
顔立ちそのものはまだあどけなさを残しているのにも関わらず少年はいやにドスの利いた声と目つきで吼えたのだった。
――こ、こいつマジだぞ……
少しだけ切れた頬がちりっと痛む。それから創介の頬に一筋、赤い線が引かれるのが見えた。
まずはセラがゆっくりとその銃口、オートマグを降ろした。それを見届けてから、ナイフの少年はミミューの方もきっと睨んだ。
「……お前も。とっととしろよ。十秒以内だぜ、お兄さん?」
ミミューがふーっとため息を吐いてから拳銃を降ろす――が。
一旦は降ろしたその銃口の先が、ミミューの隣にいるもう一人の大人しそうな少年の方へと向けられた。それで一瞬ナイフの少年がたじろいだかのように見えたが、すぐにまた元の殺気だった顔つきに戻った。
「――へえ?」
ナイフの少年がどこか面白げに、ミミューを見つめ返したというよりは睨み付けたのだった。
創介からすれば挑発するような真似はよしてくれ、と訴えたい限りである。
「……ちょっと酷いように思えるかもしれないけど、だったら僕の方も容赦しないよ」
ミミューは視線をナイフ少年の方へ向け返しながら、しかし銃口はしっかりともう一人の少年へとポイントしながら言うのだった。
「いいよ」
喋ったのは今しがた銃を向けられている方の少年だった。不思議に思い、ミミューが視線をそちらへ移した。
銃口を突き付けられていると言うのにこの少年は、何だか嬉しそうにさえ見える顔つきでニヤニヤと笑っているのだからミミューの中ではそのぼんやりとした疑問がハッキリと形になって完成されてしまった。
「撃って! 撃ってみてよ、ホラ。……僕、銃で撃たれるのなんて初めてだからわくわくしちゃうな。ね、ね、どんな感じなの? 一瞬で逝くの? それとも意識は数秒残ってて、その間のた打ち回ってるの? ねえ、ねえったら……」
そしてたちまちのように饒舌になり、その目を爛々と輝かせて少年は騒ぎ始めた。口調そのものは無邪気なのに、どういう事だ。これにはミミューも驚きを隠せない。脅すつもりが、逆に脅し返されてしまったみたいだ……。
「――生憎だったなー、お兄さん。そいつに暴力での脅しは一切通用しないぜ。一切、な」
勝ち誇ったようにナイフ少年が笑う。
が、次の瞬間にはその顔が苦痛に歪む――創介が反撃に出たのだった。創介は顎を掴んでいたナイフ少年の指に思いっきり噛みついた。
「うぁああああっ!? ってぇなぁあ! 畜生、何しやがるッ」
もう片方の手に握られていたナイフを掲げた瞬間にはセラが機敏に動いていた。セラはその見た目からは程遠い俊敏さによって繰り出される手刀によるこめかみへの打撃。叩きこみざま、少年は脳みそごと揺さぶられたかのような衝撃を覚える。
そしてふらついた少年の腕を、セラが思い切り捻じり上げた。
「あうっ!?」
ナイフが吹っ飛んだのを、慌てて創介がキャッチする。
少年がありったけの憎悪をかき集めたような目できっとセラを睨み返すがセラは怯みもしない。その手を掴んだままでクールに一蹴するだけである。
「――諦めろ。襲う相手を間違えたな」
「くっ……」
「神父さん、この厄介な双子ちゃんどうするの!? 当然降ろすよね、ってか降ろせ! こんな物騒なガキ!」
創介の言葉にもミミューはすぐにはうんとは言わなかった。いや、むしろ……。
「降ろすのも可哀想だよ。まずはボディチェックしてから、乗せておこう」
「!?」
創介もセラも、ほとんど同時にぎょっと驚いてしまう。
「ななな、何でっ!?」
そしてこの決断には双子自身も驚いたらしい。凶暴そうな方がぎょっと目を見開いたが、すぐに小憎たらしい笑顔に切り替わった。
「……ッへーぇ。人助けのつもりか? おもしれーや、意味わかんねえけどそんな事したって何の見返りも無いと思うけどー?」
「別にそんなもの求めちゃいない。ここで会ったのも何かの縁じゃないかな、ってのもあるしわざわざ降ろして置いてくのも残酷じゃないかっていうだけだよ」
「ちょっとちょっと神父さん、俺切られたのよ!? こいつ、マジだったぞ!」
切られた箇所を指差しながら創介が身を乗り出した。しかし、そんな半べそ状態の創介の事は無視してミミューが続ける。ミミューが双子を見つめる表情は、怒っていたり睨んでいるわけでもない。どちらかと言えば、少々悲しげなものだった。
それからミミューは深いため息でも吐くような調子で、云った。
「――、君達は『空っぽ』だ」
「は……?」
ミミューの言った事は勿論、創介にもセラにも理解できなかったが、双子の方はその言葉に何かを感じ取ったようにそれぞれがほんの一瞬、僅かにだがたじろいだようだった。
FFだとさ、ゾンビとかのアンデッド系の
モンスターにはポーションやケアルのHP回復系の
魔法やアイテムでダメージが当たるのが面白いね。
そして炎の魔法に何故か弱いね。
フェニックスの尾とか与えたら一撃で倒せるんだっけ?
もうしばらくFFから遠ざかってるので曖昧だな〜