前半戦


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01-3.24時間耐久!地獄の鬼ごっこ



「それは勿論来るといいよ……でも、驚いた。てっきりエミちゃんの方を取るかと思いきや」
「はっはー。いや、ぶっちゃけて迷いましたよ、正直ね」

 創介が笑い交じりに答えた。

「でも……、ちょっと納得がいかないっつーか……俺なりに大人しくしちゃいられない理由も出来てさ……」
「理由が?」

 うん、と創介が一つばかり頷いた。

「俺、友達少ねえんだけどさ」
「? う、うん」
「その数少ない友達のうちの一人を、ついさっき殺す羽目になった」

 その言葉に、セラがぴくんと肩を震わせた。同時についさっきのその惨事を思い出した。

「――何を恨めばいいのか正直よく分からないんだけどさ……、あー、うーん。仇討ちとも違うけど、……あと親父の事も心配だし。とにかくまとめると、まあ俺も黙ってないで何とかしたいっていう……ね。そのー……」

 彼なりにこの状況に理不尽さを感じているのは同じ、という事らしい。こんなガキの作文のような理由がまかり通りってよいものか、言ってから創介は考え込んだもののミミューはややあってから少しだけ笑った。

「そっか。うん、上等上等。一緒に戦おう」

 相変わらずどこか緊張感に欠ける軽い感じでミミューは頷いた。

 ミミューは脱いだ帽子とヒーローアイマスクを再び着用すると、セラと共に武器を見定め始めた。

「それで君達、ここまでどうやって来たんだい?」
「一応車……だったんですが。途中でゾンビの急襲を受けて、タイヤがパンクさせられました」

 セラが一通りの説明をする。それで創介は高かった車のあの無残な姿を思い出して涙が浮かびそうになるのを感じた。

「成る程。だったら僕の車で行こうかい。運転手交代だ。……あ、そうだところで!」

 いや、それにしてもよく喋る神父だなぁ――とここまでで創介とセラは同じ事を考えていた。創介も中々よく喋る男ではあるがこのミミューも中々なもんだろう。

「自己紹介、しよっか? 名前は必要でしょ。これから先も」

 そういえば創介とセラも互いの事を何と呼び合えばいいのやらいまいちハッキリせずにここまでやってきたのだ。

「あ……、えぇと俺は創介……呼び捨てでいいっす」
「そっか、創介くんね。君は?」
「……セラ」
「ふーん、セラくんか。――分かった、覚えたよ。僕は……さっきも名乗ったかもしれないけどミミュー。宜しくね」

 そう言って街の神父ことミミューはパチッとごく自然なウインクをして見せた。

「……なんつーか、神父ってあんなんでいいのかね〜」

 武器を見定めするセラの横に腰を降ろしながら創介が小声で耳打ちした。

「すごい軽くない? ノリとか話し方とかさー」
「聞こえるよ。声、大きいって」
「いいじゃん別に、悪口じゃあるまいし〜」

 武器を手に取りながら創介はちらっと横目でミミューを見た。なんというかそのヒーローを意識した服装とやらはどうかとは思うが、着こなしているあたりが凄いというか。……良くも悪くも絵になる男である。

 ミミューはエミと何やら話し込んでいるようだ。

「きっとエミさんもあの誠実そうな笑顔に落とされたんだな……うぉお、畜生っ。俺には出来ないぜ、あんな汚れてなさそうな顔は」

 悔しそうに呟く創介の横顔を一瞥し、それからセラは呆れたように手元の9mmパラベラム弾と45ACPを手に取るとそれを見比べ始めた。真剣そのものといった表情で、創介はそんなセラを見つめながらつくづく何者なのか不思議になってしまうのだったが。

「何? 僕とエミちゃんはそういう関係じゃあないよ」

 ミミューがいつの間にやら二人の背後にいてぬっと顔を覗かせた。

「げっ、聞こえてる……」
「……だから言ったのに」

 はぁ、とセラが大きなため息を吐いた。

「エミちゃんは彼氏募集中ですよ。良かったら立候補してみては?」
「神父さま、余計な事言わなくていいッスよ」
「あ。あと、僕ゲイですし! 素敵な女性はたーくさんいますが残念ながら僕の恋愛対象にはならないんですよねー」

 その言葉にはさすがに冷静に見えるセラも目に見えた顔つきで絶句した。創介は慌てて露骨に尻を隠しながら身じろぎした。

 そんな彼の様子をミミューがおかしそうに見届けてから微笑んだ。

「あ、大丈夫、大丈夫。ノンケくんには手は出さないし、ちゃーんとパートナーいるからそこまで飢えて無いよ?」

 そう言って笑うものの、その笑顔は何だか異様な感じであった……差別や偏見は良くないと思うのだが、やはりちょっと、いやかなり、生まれて初めて出会うそういった人種に面食らってしまったのは事実。

「う、う……一瞬この旅が開始何話めかにして早々に終わるかと思ったぜ、打ち切りになるところだった」
「あ、ああ――」
「それよりも早く武器詰めなきゃ。ほら急いで急いで!」

 急かされて二人は再び目の前に広げられた武器の山へと目をやった。


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