前半戦


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08-3.手紙



 外に行くと作業に使う道具が無造作に置かれていた。鎌や刈り込みハサミ、除草剤や軍手、シャベルなどが並べられており、口うるさい女子がまず先陣を切ったように言ったのだった。

「女子は力がないんで、除草剤係がやりたいでーす」
「えー。また力作業は俺らかよ〜、女子は楽ばっかりしてんなぁ」

 発言力のある女の子の命令は絶対だった。凛太郎も一真も、それに素直に従うというよりは自ら率先して動く気もないので只それに従うだけである。凛太郎はハサミを持たされると、一真と共に垣根の処理を任された。

 施設の周りをぐるりと囲む垣根は広く、女子らはこれが一番面倒臭い作業である事をよく把握しており、また虫も多い事から体よく面倒ごとを回されてしまったのだとすぐに分かった。
 山奥に佇む施設の周辺には畑や雑木林などが多く、蛇くらいはしょっちゅう出るし、時にはイノシシが出る事もあるらしい(ついこの前なんかは、交番のお巡りさんが山から姿を見せたイノシシを撃ち殺した時には、施設の男の子達がその死骸を見に行っていた。

「凛太郎。手が疲れたね」
「黙ってやれよ」

 一真は凛太郎の前ならばよく喋り、積極的に目も合わせた。だが、他の人間には人見知りするのかそうもいかない子だった。それは凛太郎も同じで、彼らは誰にも従わない。いや、表面上ではそうしているのだが。

「……凛太郎」

 それからも一真は鎌で足元の雑草を刈りながら何か話しかけようとするが、鬱陶しくなってしまい凛太郎は無視していた。黙々と、ハサミを動かしながら邪魔な枝を切り落としていた。

「凛太郎、いつまで手紙読まないの?」

 じゃきん。
 ハサミの刃が擦れ合う音が一段と大きく響き渡ったような気がした。しばらくその姿勢のままで、ハサミの刃を閉じたまま凛太郎は黙り込んでいた。それから何事もなかったかのように、凛太郎は再び作業を再開させた。
 先程よりも幾分か雑な手つきになり、凛太郎は目の前に伸びる枝を次々切っていった。

「凛太ろ……」
「、るっせぇな!!」

 じゃきん。
 それは木の枝を切るのとは少し違う感触で、違和感にすぐに気がついた。怪訝に思い、凛太郎は足元にボトリと振ってきたそれに視線を落とした。
 それで、間違えて切り落としてしまったのであろうそれを見て思わず呻いた。慄くようにして身をのけぞらせた。
 
 真っ二つにされてしまった、ペン程のサイズをしたムカデが、うぞうぞとその多足をばたつかせてもがいている。触覚のついた方だったから、こちらは頭側の方なんだと分かったがそれで表情が識別できるでもない。でも、自分の半身を失ったムカデは苦しそうにもがいているのだと分かった。

 しばらくはその沢山の足を動かしていたムカデだったが、すぐにその動きが止まってしまった。死んだ、と思ってからもすぐに凛太郎は何かを言う事が出来なかった。
 生臭い匂いのする体液が、千切れた身体からじわりと溢れ出した。

「――、死んじゃったの?」

 ワンテンポずれて一真が口に出した事でようやく、凛太郎ははっとなった。我に返ったようだった。

「……てめぇのせいだぞ、てめぇが横でゴチャゴチャうるせえからだ」

 自分の不注意のせいだとは分かっているのだが、凛太郎は目をむいて怒鳴り散らした。一真はしゅんとしょげたように僅かに顔を伏せたが、凛太郎のむかつきは収まらなかった。それから、もう微動だにもしなくなってしまった不運なムカデの胴体を見た。もう半分は、垣根の向こう側でくたばっているのだ。そちらの方はまだ動いているのか定かではないが、凛太郎は手にしたハサミを見た。

 感触がはっきりと思い出せて、それから凛太郎は何か幻聴のようなものを聞いた気がした。幻聴――いいや、違う。

 この瞬間、きっと自分ははっきりと帰っていたのだ。
 あの時の、あの場所に。
 もう二度と思い出したくもないが、きっと過去はずっと自分達を追いかけてきて離さないのだ。

 


ムカデって体液出すとそれに
吸い寄せられて集まってくるらしいね。
ムカデは頭を潰すと死ぬらしい。
あとお湯をかけると死ぬとか。
幸いにもムカデはまだ出たことないな。
あっ。語気は頭潰してもしばらくは生きてるらしいね。
語気とムカデならどっちが強いんだろうな。
たまにゴキブリの話すると凄いテンション上がる奴
いるけどあれ何なのwww



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