前半戦


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05-4.猫を殺せば七代祟る



 少年が再び化け物の顔つきに変化し、大きくその口を開けた。

「そ、創介……馬鹿ッ、ぼさっとするな!」

 セラが叫ぶのとほぼ同時に、飛び出して来た。庇うように。いや、実際庇われたのだ、自分は――何とも情けない事に。

「うわあああ!?」

 セラは少年の鋭利な牙によって肩を思い切り齧られている。たちまち、赤い絵の具のようなシミが肩にじわっと広がった。

「……こん、の!」

 負けじとセラは少年の腹に渾身の蹴りを食らわせた。

 ダメージ自体は屁でもないのだろうが、衝撃によってか少年がそれで少し離れどっとその場に尻餅を突いた。

「……セラ!?」

 創介が肩を押さえるセラを抱きとめた。

「く、そ――本当に食いついて来た……っ」
「ち、血が酷ぇよ……、お、俺のせいで。い、今すぐ止血する――」
「いい、それよりアイツを撃て!」

 痛みをこらえながらセラが叫ぶ。しかし少年が、ゆらっと立ち上がった。

「ったく君らはどこまでも僕を馬鹿にしてくれるんだねぇ……」
「くっ……」

 セラの背中を抱きかかえながら創介が震える手つきリボルバーを構えた。絶望感でいっぱいの眼差しで、その相手を見上げる。

――当たるか? いや、当てるしかない

 きっと唇を引き結んだ時だった。自分のものではない、別の銃声。ハンドガンよりもやかましいその銃声は恐らく……。

「……銃声がしたからまさかと思って見に来たんだ」

 ミミューが入口でその十字架のストラップの下がったショットガンを構えている。少年は散弾によってか右腕を吹っ飛ばされていた。なくなった右腕を不思議そうに眺めながら、少年は再びミミューを見た。

「ちょっと何これ……うそでしょ?」
「どんな化け物だろうと……、徹底的に破壊すれば行動は出来まい」

 ミミューが躊躇わずに、ショットガンを腰だめに構えて撃った。今度は少年の頭が半分程ぱんっと弾けた。少年は身体のほとんどを失ったせいかふらふらとその場でもたついて、やがて膝から崩れ落ちた。

――やったのだろうか?

 室内に不穏な空気がたちこめる。が、それよりも……創介はセラを起こして傷口の具合を確かめようとする。

「セラ……!」
「セラくん!? 怪我したのか、今すぐに……」

 ミミューが駆け寄ってくるがセラは首を少し横に振った。

「噛まれたんだ……、すまない。だから、僕はもう……一緒には行けない」

 その言葉の意味はすぐには理解できなかったが、いや、したくなかったのだがセラが補足するようにもう一度その唇をうっすらと開く。

「――ここで自分で命を絶つよ。多分、その方がいいんだ」
「ハ!?」

 何となく予想はしたものの……、創介が思わず目を見開いてセラの顔を見つめた。セラは覚悟を決めたような顔つきで、冗談でそんな事を言っている風にはとても見えない。

「な、……にゆってんだよ!? かか、噛まれたぐらいで死ぬこたねーよ!」

 そもそもセラは自分を庇って、こうなったっていうのに。創介がそれを許す筈も無く、振り絞るように叫んだ。ミミューも、ナンシーも、遠巻きに見ている双子達も皆険しい顔をしていた。

「まだ感染すると決まった訳じゃねえんだろ。だからそんなあっさりと死ぬとか言うなって――、」
「いいや、駄目だ。それに何か毒でも持ってるとしたら、それで結局死ぬかもしれないんだ。苦しむのもごめんだし、足手まといになってまで生きたくもないんだ。それに僕は……」

 言葉を切って、何か先に続く台詞でもあるものかと思ったがセラは、もういい、といった感じで首を横に振った。

「……。ごめん。何でも、ない」

 セラの両目がやや憂いを帯びてから細まった。

 吐き捨てられたその言葉は、もう完璧に諦めきっているかのような口ぶりであった。ミミューが深いため息を吐きながら、その片膝をついた姿勢のまま静止している。祈りの言葉でも吐き出しそうな表情だったが、ミミューは何ともいえないその顔つきのままでしばし無言だった。

 セラが伏せていた視線をやや持ち上げながらまたその唇を動かした。

「神父。頼みがあります、僕が死んだらどうか第七地区へ行って――」
「失敬だなあ、僕をばっちいゾンビか何かと混合してる?」

 そして何とも言えないこの悲壮感漂う空気をぶち破ったのは――先程、半身を吹き飛ばされた筈の少年だ。一同が驚いて(当然だが)、ばっと少年を見る。

 死んだものだとばかり思っていた筈のその少年はボタボタと大量の血を流しながらも、その場に既に立っていた。散弾を食らったと言うのにそんな事など大したダメージでもなさそうに、その飛び出た片方の眼球を掴んで何とかはめ込もうと齷齪しているようだった。――何なのだ、どう説明したらいいのだ、この光景は一体……。

「それに毒なんかもっちゃいないよ。こんなに可愛いのにー」

 そして残ったもう半分の、愛くるしい顔でこちらを見た。

「ば、馬鹿な……ショットガンで吹き飛ばされてまだ生きてるなんて……」
「あ、でも花でも動物でも綺麗なもののほうが毒持ってたりするしね。あながち間違いでもないかなァ。綺麗なバラには『毒』があるとも言うからね」

 呻くミミューの事等はまるで無視するように少年は飛び散った自分の残骸を見下ろしている……かと思うと少年はそれを拾い上げてバリバリと食べ始めた。

「うっ……」
「回復の機能を高めるためにはこうやって大量の栄養源を取らなくちゃ駄目なのがネックだけど――、まぁほとんど不死身といっていいようなものだし、文句はいってられないよね。僕の細胞は万能なんだよ、これを公の場に見せて万能細胞は本当にあるって証明してやりたいくらいだ」

 そう言って少年は口元の血を拭いながらニターっと笑った。少年が言ったように、その失われた半身がやがて回復し始める。

 断面からは不気味な気泡を放つ粘液がドロっと溢れだしたかと思うとたちまち数本もの触手がにょろにょろと生えてきた。その質感は何となくトコロテンを彷彿とさせた……色味こそ全く違うし、それは全然美味しくは無さそうなのだが。

「ククッ――、もし強くて美しい僕が死ぬとしたら〜……その死因は餓死かなっ? あ、でもなんかそれってゴキブリみたいでヤダー」 

 強酸のような体液をブクブクと泡立てながら、その右腕と顔半分が完全に再生を遂げた。そこには元の、綺麗な少年の姿が復活を遂げていた。

「ふふ、でもまああんまり撃たれても困る事は困るんだけどね。だってほら、回復が追いつかなくな……」

 少年が全て言い切る前に、ミミューは腰に差してあったハンドガンをすっと抜き出した、問答無用でその引き金を引くとあの発砲音はせずに、代わりにビリリッと静電気でも弾けるような音がした。

 蒼白い閃光が走ったかと思うと、鋭い電光と共に少年の身体へと突き刺さった。……命中した後、少年は陸上に上げられた魚みたいにビクビクと痙攣し、ぐるんっと白目を向いて膝から崩れ落ちた。

「!?……え、えっ!?」
「……ピストル型のスタンガンだよ、テーザー銃っていうね。……ゾンビ相手にこんなもの通用するわけないと思ってたけど――出掛けにエミちゃんの言う事を聞いて正解だったみたいだ」

 ミミューはトリガーに指をかけながらスタンガンをくるくると回している。それはそう、出発前にエミが彼の元へと届けた例の拳銃型の武器である――少年は演技では無く本当に伸びてしまっているようだ、ぽかんと開いた口から泡を吹いている。

「非・致死性の武器だけあってか殺す事は出来ないんだけどね……あ、そうだ。あと気になったんだけど『綺麗なバラには毒がある』じゃなくて『棘がある』の間違いだよね。凄く訂正したかったんだけどさ」

 その銃身の形をしたスタンガンを指で弾きながらミミューが続けた。

「まぁちょこっと改造してあるから一般に出回ってるやつよりは威力もかなり高め設定してあるし何よりも相手がほとんど素っ裸なのが功を奏したよ。ほら、見てこれ。これね、針が飛び出す仕組みなんだけど、それが刺さってそこから電流が流れるから。分厚い服とか着てる相手には刺さりにくくて効果半減しちゃう……」
「わ、分かった。とにかく効いたってことで」

 創介が話しながら興奮するミミューを一旦止めてから、セラの方へと向きを変えた。

「とにかくこいつの治療が先だよ。アイツが言うには、別に毒も無いみたいだしな」

 言いながら創介はセラに手を貸すが、セラはその手を取る事は無くぷいっとあちらへ向いて立ち上がった。

 照れているのかもしれない、とは都合良く思いすぎであろうか? まあ指摘したら拳が飛んでくるか拗ねられるのが目に見えているので、彼の自尊心のためにもそっとしておくべきに違いない。

「……あの露出魔の化け物ちゃんはとりあえず捕獲しておこうか。もしかしたら何かしら今回の事件に絡んでるのかもしれないしねェ」

 言いながらミミューは、またあの黒い布テープを取り出した。




ネットで見てしまってから
すっごいトラウマになってる画像
・岡田ゆきこの心霊写真。眼鏡のこえー幽霊がうつってるの。
岡田ゆきこじゃないらしいけど
・死体と添い寝男。これほんときらい。
死体は本物なのか。偽者といってくれ。未だにトラウマ。
・おつかれさまの人形の画像(ぐぐったらだめだよ)
・長州力の背後に居る客席の女性
(しかし詳しく調べてみると普通の女性だったそうで……
怖がっちゃ駄目だけど初見は怖かった……)
・どこかの孤児院? みたいな場所で
子ども達が背中向けて倒れている白黒写真、こわい
・ジャスコの冤罪事件で時効になった犯人の女の顔
・防犯カメラにうつった強盗殺人の男の顔、
目がかっとなってるやつ

画像系はやっぱ思い出してこあい
誰かぼっさん付け足して和ませてくれよ……



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