10-3.人類SOS
今日も今日とて、誰かに頼まれたわけではないそのパトロールはすぐに終える筈だった――が、お節介なその性分のせいでミミューは真っ直ぐ教会へと足を進めていたのを止めた。
「おっさーん、俺の女に手ぇ出すとは随分いい度胸してんねぇー」
「ちょぉ〜怖かたよぉ、アツシぃ。触られてる間声も出せなかったぁー」
見れば派手ないでたちの女子高生と、いかにもガラの悪そうなチンピラ風の少年がサラリーマンと思しき中年の腹を蹴り飛ばしている。
本気で蹴っているのではなさそうだが、無抵抗の人間相手にそんな事をするだなんてどういう教育を受けてきたんだか。ミミューはくるっ、と踵を返してそこへと向かったのだった。
白髪だらけの中年は蹲り、その理不尽な暴力に何とかして耐えているようだった。
「わ、私は何もしちゃいない……」
「あ、嘘吐いちゃうんだ? マジで? へー、へー。……そうなの?」
「ううんー、スカートん中手突っ込まれてぇ……声出したら殴るぞって脅されたぁ」
「オラ、嘘つくんじゃねぇぞ! 泣いてるじゃねえか馬鹿野郎!」
それは完全な冤罪であった――いわゆる美人局的な犯行で、少年と少女は毎日のように金を得ているのだった。シビレを切らしたように少年がすちゃっとナイフを出す。
「右目? 左目? 両方ぶすっと行っとくぅ?」
「ヒッ……、」
「嫌ならどうしたらいいか分かるよね? はい、お財布の中身はいくらか……」
「いい加減にしたまえ、この悪党ども!」
すぐ背後で声がして、少年と少女はばっと振り返った。
上下ともに黒一色のスーツに、唯一白色のネクタイ――ここまで派手に活動していればその噂は地元じゃあかなりの評判だろう。少年と少女は一斉に現れたミミューを観察するように見つめたのだった。それでその装いは街で囁かれるヒーローの話と一致していたので、思わず声を揃えて驚愕してしまう。
「なっ……」
ミミューは今日はちょっと奮発したらしい、物々しいポンプアクション式のショットガンを背中からジャキンッ、と取り出して腰だめに構えた。キラッ、と何かが反射したので見ればシルバーの十字架がまるでストラップのように提げられている。
スーツの裾を夜風にはためかせながらミミューは一歩、足元を踏みしめる。
「――僕にはこの街の民を守る義務がある。秩序を乱す者には、容赦ない鉄槌を下して来た。いわば神が愚かなる罪人に審判を下すよう……あー、と……あらら? 続き何だっけ」
ヒーローにはつきものである決め台詞を思い出せないのかミミューはそこでちょっと口籠った。
「あんもう、あとは忘れた! くそっ、昨日トイレでウンコしながら辞書片手にあれだけ考えてたのに……」
どこか大人っぽくないけろっとした口調でそう言い、ミミューが掲げていたショットガンを降ろした。
少年と少女は一瞬ばかり怯んだものの、すぐさま持ち直して啖呵を切ったのだった。
「ん、ンだこらー! そんなモデルガンで俺と争おうってのかー! おーっ!? てめぇ、噂のヒーローだとか何とか言ってる痛いコスプレオッサンだな!? 正体特定してネットでバラしまくってやっからな、俺とタイマンしろや!」
「……自称ヒーローは合ってるんだけど、まだ二十七歳です僕。オッサンは酷くないかなぁ〜?」
ミミューがにっこりと余裕そうな笑みを漏らしたが、彼は今二重に怒っているのには違いないだろう。
それからミミューは、突然の事に目を丸くしているサラリーマンに向かって叫んだのだった。
「おっと、そこのサラリーマンさん。早く逃げなさい、僕がこの不埒な輩どもを成敗しているうちにね。今夜も仕事、お疲れ様」
ぱちんと軽やかにウインクを決めてミミューは蹲っていたサラリーマンに呼びかけた。へたりこんでいた白髪のリーマンだったが、鞄を手繰り寄せると慌てて起き上がると走って行くのだった。
「……よそ見してんじゃねえコラッ!」
少年が向かってくるがミミューは段差の上から飛び降りるようにして、そのまま少年の背後へと着地した。
「なるほど、君にはコレがモデルガンに見えるって言うのかい」
余裕を持たせた口調で言い、ミミューは慌てて振り返った少年の眉間にショットガンの銃口を突き付けた。それで少年の全身が一気にこわばり、冷や汗がたらりと頬を伝う。
咄嗟に少年が詰まった様な声を漏らすのが、こちらにまで聞こえてきた。
「いいよ〜。何なら今ここで撃ってみても僕はいいんだよ、痛い目に遭わないと分からない悪者には多少なりと手酷くやっちゃうのが僕の正義なんだ」
「いっ……な、なんだこのオッサン……」
そのどこか得体の知れぬ笑顔に気圧されたように少年は後退するが、ミミューは依然その調子を崩すことなく銃口をポイントしたままであった。背後でそれまで立ちすくんでいた少女がまたこれとは別に悲鳴を漏らした。
それに気付いた様にミミューが僅かに視線を背後へと動かす。
「ん……?」
「あ、あ――やだ……嘘でしょ、何……」
元よりでかい少女の目がいっそう大きく見開かれている。が、驚きを隠せないのは彼女だけでは無かった。ミミューもまた、戦慄したのだった。何故ならば――……
「何だ、一体!?」
ミミューがショットガンを一旦降ろして振り向くと、路地の向こうから……ブリーフ一丁の、若者とも中年とも分からない年齢不詳のガリガリ痩せ細った男(頭は僅かに毛の様なものが生えているが……)と、これまた正反対に太り気味のおばさん(かなり化粧が濃く、その上髪は派手な金色だ)がこちらへ向かって来ようとして走ってきているではないか。
ただでさえインパクトのある見た目だというのに、二人は何やら訳の分からない事をでかい声で叫びながら、おまけに全力で疾走してくるのだからそれはもう恐ろしい、の一言に尽きる。両手を振りながら二人は明らかに停止する気配がない。
「な、何だ一体……!? ヤクチューか何か?」
この辺はおかしなクスリが出回ってるって言うし、そうだとしてもおかしくは無い話だろう。
「ウッ! ンーッッ! ウッンンンーッ! ンッウゥ〜〜〜〜!」
痩せ細った子どもみたいにも大人みたいにも見えるそいつが、満面の笑顔で奇怪すぎる呻り声を上げている。
だらだらとヨダレと泡を大量にこぼし、手を振りながらこちらへ向かって走ってくる、知り合いか?――いやいやこんな知り合いは自分にはいない。と、するなら……。
「下がってろ!」
ミミューが少年と少女に言い放つが、少女はその異様な見た目にすっかり腰を抜かしたらしい。
その場に尻餅をつき、ガクガクと青ざめた顔で震えるばかりだった。
「何してるんだ! 早く助けてや……」
「うう、うわぁあああっ!」
少年の方は耐えきれなくなったようにミミューを押しのけ、果ては彼女を見捨てて走り出した。
「おい! 馬鹿っ」
ミミューが叫ぶが、少年は走りだし、そして……少年の姿があっという間に『何か』に引きずりこまれて消えた。
「な……ッ」
次いで少年の引き千切れそうな悲鳴が轟いた。想像もしたくないが、少年の生死はほとんど決まったようなものだった。
おかしい――、一体全体何が起きている? ミミューはショットガンを背中に背負い直し、慌てて腰を抜かした少女を抱きあげるといわゆるお姫様抱っこの状態で駆け出した。
特攻してくるブリーフ野郎とオバサンを何とかして掻い潜り、ミミューは薄暗い路地を一目散に駆け抜ける。
「あ、あああ、いやぁああっ……何これ、何これ」
「落ち着け!……今は彼の事より自分の身の安全を考えるんだ!」
「何っ、何が起きてるのよぉ!」
「――僕にだって分からない!」
神に仕えていようが分からないものは分からない……、そしてあの少年は一体どうなったのか、もはや考えるのも恐ろしい。
ミミューはしがみついてくる少女を庇うようにして走り抜け、周囲に集まり始める異様な気配達を上手くかわしてゆく。
「も、もう悪い事しない……あたし悪いことしないからぁあ……」
「ああ、分かったよ。次からはちゃんと心を入れ替えるんだね」
「罰よ! これは全部罰なんだわ……初めは軽い気持ちだったのよ、只遊ぶお金が欲しくて――こ、こんなに簡単に手に入るんだって思ったらあたし、あたし……」
「分かってる、分かってるから。心から反省しているのなら神は全て許して下さるよ……」
慰めにもならないと分かってはいたものの、ミミューの言葉に少女はさめざめと泣き始めた。
「う、嘘よぉ……だったらなんでアツシは死んだのよぉ〜」
先程の彼の名前だろうか――ミミューはそればっかりは答えられずにしばし黙り込んだ。
が、すぐに口を開く。今は彼女を責めている場合じゃないし、糾弾して非難している時でもない。
「僕はこの街の神父だ。……それで少しは気が晴れないかい? 君の懺悔を聞いたからには僕は何度だって答えるよ。迷える子羊よ、お許しします。ってね。どう? これでもまだ不安かな?」
錯乱している少女を落ち着かせるべく、ミミューは極力落ち着いて、ひどく優しげな口調でそう言った。おずおずとその視線を上げる少女に、更にぱちっとウインクをして見せる。
たちまち少女は安堵からなのかそれともまだ抜けきれない恐怖からであろうか、わっとミミューの胸で声を上げて泣いた。
そしてまだしつこくマリオの話題を続けるが、
コロコロで連載してたお下品なマリオ漫画、
スーパーマリオくんがまだ連載中でしかも絵柄が全く変わってないという
二重にびっくりした今日この頃。
小学生の時読みながら「これ、叱られないのかな…」と
心配したもんだがそれを凌ぐ下品ポケモン漫画、
ふしぎポケモンピッピの登場によってその心配は
帳消しにされた。
だってすげーんだよあの漫画、ギエピーwww
可愛いピカチュウがクソ漏らしたり。