前半戦


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08-2.ここは悪夢街一丁目



「うぐっ、ひぐぅ……」

 再び疲れ果てて創介は壁に手を突いた。横腹が、もうめちゃくちゃに痛い……痛いったら痛いのだコレが。おかしいな、結構運動してるはずなのに……。

「うわーーーーっ!」

 そしてまた悲鳴だ。いい加減聞き飽きた、と思いつつも自分も逃げなくては――と顔を上げれば驚いた。

「よ、ヨシサキ……! ヨシサキじゃねえかよ、おまえっ……!」
「あっ!? あ、そそっ・ソースケっ!」

 ヨシサキの後ろには全力疾走をする老婆のゾンビの姿があった。
 
 老婆は白装束姿で、頭には三角型の布がついている。そういえば、ヨシサキは親戚の通夜だとか何とか言っていたような――老婆というわりには指先までピシっと伸びた素晴らしくキレのいいフォームで老婆は走ってくる。その綺麗な走り方はさながら陸上選手のようだ。

 白髪を振り乱しながらしわくちゃの顔を鬼のような形相にさせて追いかけて来るその姿は昔に聞かされたおとぎ話なんかに出て来る鬼婆はきっとこんな容姿に違いない。

 そういえば小学校の時ものすごいスピードで走って追いかけて来る百キロババアとかそういうのがいなかったけ……みなさーん、見てください! 百キロババアは実在しましたよー。……。

「ヨシサキ、どいてろ!」

 一瞬ヨシサキは不思議そうに目を見開いたが、すぐに言われた通り横に逸れてそのまま転がった。それでゴミ箱にぶつかって中身がひっくり返った。

 創介は手にしていた傘を握り締めると突っ込んでくる鬼婆の勢いをそのままに、傘をその目へと突き立てた。

「ンゴオオオッ!」
「ひっ」

 ヨシサキがその現場に上擦った声を上げたが、構っていられない。鬼婆は自身の目に突き刺さった傘を引き抜こうともがいたが、創介は力いっぱい鬼婆の腹を蹴り飛ばして傘を引っこ抜いた。

「……トドメだ!」

 倒れた鬼婆の脳天目がけてさっきやったのと同じように傘を振り下ろした。またあの生々しい感触と共に、傘が突き刺さる。鬼婆はドッとその場に倒れ込み、びくびくと痙攣を繰り返している。

「そ、ソースケ……」
「何で全裸なんだとか無粋な突っ込みは止してくれよ、俺だって好きでチンピーを露出してるわけじゃねえぞ」

 ふらふらと創介がヨシサキの傍へ崩れ落ちた。はぁ、と頭を抱えた。

「ソースケ……これ、一体何だろうな……」
「わかんねーよ……」
「だ、よ、な」

 創介は動かなくなった老婆の遺体にちらっと目をやった。老婆は口を開けて、その舌を放り出して今度こそはちゃんと死んでいるみたいだった。これで、二度目の死。

「あれ……まさか、その例の親戚のバーサンか?」
「そう。棺桶の中で大人しくしてたのによ。いきなり立ち上がったかと思うと会場にいた連中を襲い始めて……母さん達と夢中で逃げたけど、途中ではぐれちまった」

 はは、と乾いた笑いを漏らしながらヨシサキは眼鏡の下に両手を突っ込んで涙を拭いている。

「……。だったらここでボンヤリしてる暇はねえ、いくぞ」
「――おう」

 創介は自分で言っといてどこに? と思ったが留まっているとそれこそゾンビの餌になりかねない。

 今はもう、逃げまくるしかない。脚が痛くてそれ以上走れなくなっても、逃げるまでだ。立ち上がれないというヨシサキの腕を掴んで無理に立ち上がらせると、創介は歩き始めた。

「そ、ソースケ」
「何?」
「あれ、一体」

 ヨシサキが震える指先で指し示した場所に、紺色のセーラー服を着たまだ中学生くらいの少女がいた。

 少女はこちらへ向かって一歩、また一歩とこちらに足を進めて来る。校則に従ってかその黒髪を綺麗に二つに括り、少女はよろよろと歩いている。

 千鳥足、といえばいいのか右へ左へふらつきながらも少女はこちらへ向かって歩みを進めてくる……。

「……、? 美月ちゃん」

 創介はその少女に見覚えがあった。

「なんだソースケ、知り合いか? まさかお前こんないたいけ中学生にまで手を出してんじゃ……」
「ばっかおめー、人聞きわりー事言うんじゃねえよ! 近所の女の子だってば。……あぁと、美月ちゃんだろ? どうしたんだ一体、お母さんは……」

 美月は返事をしない。相変わらずぼんやりとしながら、美月は二人の目の前に来てようやく立ち止まった。

「み、美月……ちゃん?」

 呼びかけた、まさにその瞬間。

 美月が喉元を両手で押さえ込みびくびくと小刻みに痙攣したかと思うと、その口からドボドボとグリーンピース色の吐瀉物を吐き出した。

「おごぉおお!」
「ひ、ぃい!?」

 瞬く間に美月のセーラーの襟から、スカーフにかけて嘔吐物まみれになる。こんなにも苦しそうなのにあろう事か美月はやっぱりケタケタとゲロまみれの口元で狂人みたいに笑っている……。

「「うおぁあああああああぁァっ!!」」

 創介とヨシサキの悲鳴がものの見事に重なってハモってしまった。美月は口元を緑の汚物まみれにしながらその口を開いた――新鮮な肉に齧りつこうというのだろう。創介は指先に触れた木片を掴む。握りしめる。

「……オラァ! これでも食ってろ!」

 飛びかかってきた美月の口の中めがけて木片を突っ込んだ。やはり脳味噌までも腐敗してるのか、美月はその木片を肉と勘違いしたようにガブガブと噛み始めた。 

「? っ??……???」

 だがいつもと感触が違うのか、夢中になって齧り付きながらも小首を傾げている。

「は、走るぞ!」
「あ、あれは一体……」
「お、お、おっ俺が知るかァ! とにかく振り向かないで走れ!」

 ヨシサキの手を引いて創介が一目散に走る。

「チクショー! 誰のせいだか知らないけど恨むぜコンチキショーッ!」

 もう何か叫んでいないと気が狂いそうだった――美月とはそれなりの距離があったのにも関わらず、その超人的な脚力かもう差が縮まっている。

「ひいいい! やべー! やっべー!」
「るせーぞヨシサキ! 喋ってる暇あんなら足動かせ、足ィ!」
「わ、わかってら……あ」

 ふと手を引いていたその重みが軽くなった。

――え……ッ?

 創介が視線を下げた。

 確かにヨシサキの手はそこにしがみついている。なのに、なぜ……創介が視線を動かした。分かった。ヨシサキは手首だけをそこに残して、すぐ背後、美月とまた別に現れたゾンビ二体にその身を食われている。追いついた美月もその群れへと加わって行く……。

「あっ……あぁあああ〜〜〜!? う、嘘だろぉオイ」

 思わずぼと、っと反射的に友達の手首を落としてしまった。ヨシサキは死んでいるのか、それとも生きているのか――死者の群れに飲み込まれ、その中央やがてバリバリと何かをすり潰すような音がして、靴を履いたままの足首がポィーッと投げられるのが見えた。




緑色のゲロはエクソシストの
あの悪魔つきの子みたいのを想像してくれ。
面白い映画だよな〜エクソシスト
幼女がオマンコ! オマンコ!! って叫びながら
十字架で自分のアソコをグサグサしたりしてて
当時は大変ショックだったもんだw
何かそんなシーンばかりが騒がれてたので
物語の本質的な部分は期待せずに見たら
オカルトの名作だったので驚いた。
メリン神父の若い? 頃を描いた
エクソシストビギニングは今ひとつだった。
良くも悪くも派手だったな、話は暗いのに。



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