前半戦


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07-3.Dawn of the dead(死者達の夜明け)



 途端、目の前の車道に物凄い勢いでトラックが突っ込んできた。ハンドルを切り損ねたのか、トラックは近くの木に派手に衝突してようやく停止した。たちどころ悲鳴、飛び散るガラス片は何だかゆっくりと舞い降りて来る雪片のようにも見えた。

 運転手の姿はここからは見えないが、ハンドルの上に何かが乗っかっているんだろう。クラクションの音が止まることなくブ――――、と虚しく鳴り響いたままになっている。

 もう、この辺全体に異常が起きているんだ。

「ちっ、ちきしょう!」

 舌打ちをして創介は走り出した。

「ひゃああああああっ!」

 途中、炎に包まれたゾンビに追いかけられているおじさんとすれ違った。創介は横目でそれを眺めるだけで勿論助ける事は出来ない、足を止める事も出来ずにもう一度走り出した。

 今度は民家のガラスが割れて、中から人が飛び出して来た。それがゾンビなのか生きた人間なのか、もうどうでもよかった。投げ出された影は垣根の上に落下して行った。

「助けてー! 車、車をちょうだいーーっ! お願い! 車に乗せてぇええ!」
「イヤアアアアア!」

 中年のおばさんが猛スピードで自転車を漕ぎながら突っ切って行く。創介はもう涙を堪えるので精いっぱいだった、どこへ向かえばいいのか、何をすればいいのかなんて分からない。只ひたすらに、走り続けた。

 けたたましいブレーキ音がして咄嗟に視線をやると、バスがそれはもう凄まじいまでの蛇行運転をしている。何とも危なっかしいが、バスの周りには既に死者の群れが張り付いていてバスはそれを振り切る為にあんな乱暴な運転をしてるのだと知った。

 ゾンビの中には下半身をまるまる無くしながら、上半身だけで這いつくばっているモノもいた。

――なんだよ、もう、何だよこれぇ……

 めそめそしながらふと周囲を見渡した。

「あっ!」

 足を止めると、交番が目に入ってきた。

「すいっ、すいませ、ん! おまわりさーん!」

 祈るような気持ちで創介は交番へ近づいた。自分でも気付かないくらいに膝がガックンガックンと震えていて、声も出すのに精いっぱいだった。

「あの、あのっ! 何かもう一体全体これはどーゆーコトなのか……」

 扉を開けた。中はシン、と静まり返っている。

「……おまわりさぁん……?」

 一歩足を踏み入れてその異様なまでの静けさに息を飲んだ。周囲を見渡した……鼻腔に突き刺さるような血生臭い匂いがむわっと漂ってきて、創介はうっと口を塞いだ。

「あの、誰か……」

 恐る恐る、足を踏み入れる。

「いっ……」

 部屋の奥、パイプ椅子に腰かけた中年が……恐らくここの巡査だろう。座ったままの状態で、息絶えている。もう息をしていないのは一目見て分かった。

 巡査の片手には今時珍しい黒電話の受話器が握られていて、そのもう片手には……。ごくん、と創介は唾を飲んだ。

――自殺したんだ……

 警官のこめかみから酸素に触れて幾分か黒っぽく変色した血液がポタポタと零れている。

 その目はどこを見つめているのか、虚ろな眼差しで宙をボンヤリと仰いだままだった。パイプ椅子の下にはその血液によって出来たと思われる血だまりがいくつも出来ている、創介は顔を歪めながら吐き気を嚥下した。恐らく肩を噛まれたんだろう、肩あたりの制服が破れてそこから血ジミが広がっている。

「ううう、クソッ……」

 創介は唇を噛み締めてもはやどこへぶつけてよいやら分からない思いの丈を吐き出した。遺体の手に握られた電話を奪いあげるがやはり、繋がっていない。無音だった。創介はそのままずるずると崩れ落ちた。

「何なんだよ、一体、何なんだよぉ……誰か教えてくれよ〜……」

 こればっかりは某知恵袋に質問しても返っては来ないだろう、その答えは――創介は前髪をぐしゃぐしゃと掻き毟ると、ぺしん! と、その両頬を叩いた。

――しっかりしろ。とりあえず、家だ。家に帰ろう、親父の無事も気になるし……何よりこの全裸状態では救出された時に恥ずかしい。ここで発狂するわけにはいかない

 ふと、頬にピチャッ、と何かが落ちて来た。雨? 馬鹿な、室内で? 創介が慌てて頬を拭った。それは紛れもなく――血、だった。自分のでは無い、では誰の……。

「あ……?」

 顔を持ち上げると、遺体と同じ制服姿をした男がゲタゲタと笑っている。両目は何故か赤い色をしていて、でたらめな笑い声を上げていた。

「ひぎっ……」

 自害した警官とはまた別だろう、ゾンビ警官は片脚を折られているのか片脚を引きずるようにして動いており、口からは大量の血液を噴き出しながらも笑っている。

「おあっ、あっ! かかか、勘弁、無理! 無理無理無理無理無理無理、リームーなんですけどぉおお!?」

 創介はゾンビの横を慌ててすり抜けると、自害した警官が手にしていたその拳銃(それはリボルバーと呼ばれている形状のものだったが、創介にはそんなのはどうだって良かった)を手にし、もはや夢中で引き金を引いた。

 至近距離からの発砲だったゆえか何とか命中してくれたものの、少し後退しただけでゾンビはまだ活動している。

「あ、あ、おああああっ! く、来るな! 来るんじゃねええ!」

 死に物狂いで後先など考えずに引き金を引きまくった。五発しか撃てないうえに既に一発発射済みだったその弾はすぐに尽きた。弾が無くなっているのにも気がつかずに創介は狂ったようにその引き金を何度も何度も引いた。また引いた。

 かちゃん、かちゃん、ともはや何も出なくなったリボルバーが呻いて創介はようやく銃口を下げた。

「あッ、うああ……マジかよ、もうこれマジかよぉお! 大規模なドッキリとか避難訓練とかだったらマジでぶっ殺すぞ! あ、あぁあ〜」

 頭部を撃たれたゾンビがずるずるとその場に崩れ落ちた。

「もうヤダこれぇ……うち、おうち帰るぅ〜〜っ……帰りたいよぉっ……」

 鼻水と涙で整ったその面立ちをぐしゃぐしゃにさせながら創介は傘を手繰り寄せ、両方の手で胸元に抱き寄せた。泣こうが喚こうが、差し伸べられる手は、無かった。




何か友人と話してる時
一年に一回くらいのサイクルで
バタリアンの話題が出てくるのはどういう友人付き合いを
しているからなんだろうか。
しかもたまにサンゲリアとごっちゃになってしまうんだよー
バタリアンはタールマンっていう
ウンコみたいなゾンビが出てくるアレね。
でもタールマン、バット一振りで死ぬのがうけるw
強そうなのにね。
サンゲリアはフルチの作品の方ですね。
唐突にサメとゾンビが水中でバトルし始めるんだぜ。
他にも十字軍の死体が土の中からゾンビとして復活するんだけど
そんな昔の死体がよく土に還らんと残っとるな、と
あちこちから突っ込まれたりもする。
シナリオの破綻ぶりが凄いけど
勢いで最後まで突破しちゃう、それがフルチ作品。



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