前半戦


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05-2.悪い奴ほどよく眠る



「――大丈夫ですか!」

 けたたましいパトカーのサイレンと共に警官達が一斉に集まってくる。ぼんやりと、その夜の闇に消え行く姿に魅入られたように眺めている女性……の、元へと近づいてくるのは一人のまだ若そうな警官だった。ガタイのいい、いわば運動部系の身体付きがよぉーく目立つ。スポーツマンらしい短い髪のよく似合うその男は今年から刑事課に配属されたばかりの、元・巡査である。彫りの深い顔立ちの男で、かなり身体を鍛えているのがよく分かる。

「ガイ!」

 名を呼ばれて短髪でラガーマンばりにガタイのいいその男――ガイは振り返った。

「またアイツの仕業だろうな」
「ああ、恐らく……相変わらずの手際の良さだ、惚れぼれするな。っと……お嬢さん、大丈夫でしたか?」

 放心、というかぼんやりと夢見心地のような表情を浮かべている女性にガイは手を差し伸べる。

「あの……?」
「素敵――ねえ、あの人は一体?」
「……ヤツの正体を見たのですか!?」

 ガイが尋ねかけるが女性はすっかり目をハートにさせてその首を横に振った。

「いいえ。顔はその目元をマスクで隠しているみたいだったし、それに暗かったからよく分からなかった……けど声といいその立ち振る舞いといい、あの鮮やかな手前といい――ねえ、あの人のお名前は何と言うの? あの、素敵なヒーローさんのお名前は?」
「い、いえそれはむしろこちらが知りたがっているほどでして……ごほっ。あいつはとにかくヒーローと称して、こうやって過剰に他者を傷つけるのだからいくら正義をふりかざそうが傷害罪は間違いない……」

 言いかけるガイであったが、それを遮るが如く女性は胸倉を掴んでヒステリックに怒鳴った。

「何を言うのよッ! あのお方は私を助けてくださったのに、もう少しで私はこの飢えたクソゲスどもにレイプされるところだったのよ!?……何より通報を受けてからやっと動き出す愚鈍な貴方達よりも早く、あの方は私を助けて下さったのッ!」

 それを言われたら……、と、こちらとしても心苦しくなってしまいグゥの音も出なくなってしまう。一同は顔を見合わせて、苦笑を浮かべるよりほか無かった――。




「これだからこの国の警察は無能だって、さ……もう、参ったよ」
「ふーん」

 そんな風にベッドの上でしょげる恋人をどう慰めてやるべきだろうか……ミミューはグラスに、その恋人――ガイの好きなウィスキーを注いでやりながらぼんやりと慰めの言葉を考えていた。

「ハァ……。でもなあ、俺は暴力に暴力で返すってやり方は気に入らないんだ。……ほら、警察になる為にはさ、柔道か剣道の初段以上の資格がいるだろ。出来るだけ俺、暴力を振るう時は相手の顔って見たくなくて」
「で、あれこれ悩んで結局は剣道を選んだっていう話でしょ? その話、もう何十回も聞いたよ。いや、下手したら何百回かも」

 立派な図体に似合わぬ弱音を漏らすガイに抱きつきながら、ミミューは甘えた調子の声を出した。

「ガイはさぁ、その黒スーツのヒーローってどんな奴だと思ってるの?――正体……っていうか」
「あ、ああ。……うーん……そうだなぁ」

 と、そこでガイは顎に手を当ててちょっとばかし考え込むのだった。うんうん、とミミューは静かにその言葉の続きを待機する。

「――幼い時、きっと何か暴力的な目に遭ってると思う。親にひどい虐待をされたとか……いや或いは、誰かに虐められでもしたのか」
「ふぇ」

 思わず目を点にさせて、ミミューはわけ知り顔のガイのその後を見守った。

「その時受けた反動がでかいのかな……だからこそあんなにもえげつない酷い真似が出来るんだよ」
「ふぁ」

 背後から抱きついていたミミューだったが、それでちょっとばかし退いた。構わずに、というか気付かずにガイがその自分の意見を押し進める。

「――ほら、人を人とも思わぬ様な残虐な手口を用いる凶悪犯って幼い頃の虐待だとか暴力が原因でそうなっちゃうってケース、多いだろ?」

 話を振られて、ミミューは思わずベッドの上で仁王立ちになってしまう。違う、違う違う。全然違う! と、声高らかに否定してやりたかった。

「……そ、そのヒーローは別に凶悪犯じゃないじゃないかッ! だって街の悪い奴をやっつけてるんでしょう? そんなのと一緒にするとかさー、ありえなくない? ひどくない? ねえ、ちょっとひどくない!?」
「ど、どうしたんだよミミュー……急にそんな……というかお前が聞くから答えただけなのにそんな怒った口調で、」

 それで少々ばかり、ミミューが「あっ」と言った感じで僅かに視線を泳がせたのだが……すぐにまた取り繕って言った。

「だ・だぁああってガイが悪人扱いするんだもん! 街の悪い奴をとっちめてる、いわば治安を守ってくれるヒーローだと僕は思ってるのに! さぁ!」

 ヒーロー、の部分を殊更に強調するようにしながらガイの前にずいっと躍り出るミミュー。ガイはそれでも「うーん」と気難しげな顔を更に気難しくさせるのだった。

「けど、限度ってものがあるじゃないか。あれはいくらなんでもやりすぎだよ、今日とっちめられた三人だって一人は未だに意識が戻ってな……んっ……」

 何だかもう全てが面倒くさくなってしまったミミューは、その先の言葉を封じるようにガイの唇を自分の唇で塞いだ。角度を変え、歯列をなぞりあげながらミミューは熱い舌先でガイの口内を執拗に犯し尽くした。もうほとんど押し倒すようにして、ミミューは自分より図体のでかい恋人の上に馬乗りになった。

 やがて満足したのだろうかミミューのほぼ一方的な深い接吻が止むと、互いの唇が透明な糸を引きながら離れて行く。ガイは少し苦しそうにヒイヒイ言っている。キス攻撃の反動でガイの身体はもうすっかりベッドの上に倒れており、起き上がろうとする気配もない。

「な、何だか今日は随分と激しいな……」

 少々驚いているガイの問いかけには一切答えずにミミューはガイのバスローブを剥ぎ取ると露わになったその逞しい胸板に再び貪りついた。

「――何か今日のお前、ケモノのようだぞ……」
「うるっせいなあ、ごちゃごちゃ言わないで黙って感じててよ――ほぉら、ガイくんのおっきくなってきた〜! 口ではブツクサ言ってる癖して下は正直やのぉお! ちょっと触っただけでアンアン言うこの青二才が!」

 ろ手に伸ばした腕でミミューは下着越しに膨張しはじめるガイのイチモツを愛撫していた。

「な、何が……――あっ、ミ、ちょっと待っ、ッぁ」

 性急にそこを責め立てればガイが次第に吐息交じりの熱っぽい声を鼻からも口からも漏らし始めた。――ほんとはこういうの、もっと時間かけた方がいいんだけどなあ、とミミューは思いながら何だかさっきの戦闘のせいなのか気持ちが昂ぶって仕方が無い。

「ミ、ミュー……何か、今日のお前、っあ、血の匂いしないか?」
「……。鼻血でも出したんじゃなーい」

 答えになっているのか曖昧なその返答の真意の程も、下半身への刺激でどうでも良くなっていた。

――お母さん。僕の恋人は街の為に、市民の為に頑張っているみんなのヒーローなんです。それで僕は、少しでも助けになりたくて、それを影ながら支えるヒーローの為のヒーローになったのですが……カレの趣味に合わなかったらしく、どうも悪者扱いなようです。――勿論その悪者の正体を、このいつもはかっこいいんだけど今はちょっとマヌケヅラな彼は知りません……

「あっ、ミミュ……やめっ、あへっ!」
「やめませーん」

 結局、ミミューはガイの家で一晩明かす事になり、教会で彼の帰りを待つエミの苛立ちはピークを迎えているのだった。




あっ! 工□シーンだ!!
初めのだとガイの役職が刑事のはずなのに
巡査ってなってて何でや、となった。
警察の組織図ってクッソややこしいというか
細かい部分覚えるのが何やかんやと面倒だよね。
創作する人の壁その一って感じ。
他にも壁はいくつかあるけどね、
・銃器の取り扱い
・喘ぎ声のマンネリ化
・医療の事や薬・病気などの知識力
・政界の仕組み
・メカ系

実際経験してないと書けない事多すぎ。



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