▼ 06-4.敗者、完全復活戦
やれやれ、勝手に武装したテロリストだの婦女暴行魔だの、勘弁してほしい。特に後者は……と、ヒロシは隊員達が騒ぎを聞きつけて走り去るのを見届けた後にこっそりと壁から顔を覗かせる。
「どこだ!? どこに行ったんだ卑劣な強姦魔は!」
「調理場の方にいたらしいから恐らくそっちだ! お前はそっち!」
ふう、とため息をつきながら警戒の厳しくなった建物の中を見渡して何かいい策が無いものか……とあれこれ考えを巡らせてみる。
「ヤロ〜……! どこ隠れてやがる!」
「武器はグレネードランチャーらしいぞ、あんまり挑発するとふっ飛ばされちまう」
――木を隠すには森、とは言うものだ
ヒロシは一人離れてロッカーやらゴミ箱を適当に開けたりしている隊員に目を付ける。やる気の無さそうな仕草から分かるようにその顔にもまるで覇気が無い。
恐らくコイツが考えているのはこうだ、「ああ、早く帰りたい」「早く帰って酒飲みたい」「ゲームの続きがしたい」「寝たい」……とか。まあ大体そんなところだろう、手に取るように分かる。今そんな事言えるような状況ではないのだが、あくび交じりのその顔を見ればすぐに察しがいくというもの。
――そんなにダルいのなら少々眠らせてあげましょうか、お望みどーりに……
ヒロシが納得させるように一人で内心呟いてからトイレの壁に隠れつつ、タイミングを見計らう。
「ふぁーあ……ねっみ。あー、だり。何でゾンビなんか溢れんだよ、面倒くせえなぁーもう……ふわー」
眠たそうな顔をしながら緊張感の無いアクビを幾度となくもらし、青年は何ともまあ適当〜に作業をこなしている。こんなので戦場なんか向かわせて大丈夫なのか……? 背中、ガラ空きだぜ。お兄さん――ヒロシは横手の壁をわざと拳で殴った。
青年がはっと振り返る。流石に気付いてもらえたようだ、コレには。
「だだだだ、誰だ!?」
青年はホルスターの拳銃を慌てて引き抜いた。
「いいいい、今、音立てたの誰だ。そそそ、そこか? トイレだな!? トイレなんだな、ええいくそっ」
わざとらしく大きな声で喚き立てながら、青年が見る限りは誰もいないように見えるトイレを指差す。
「わわわ、分かってんだぞ。個室に隠れてんだな。古いんだよ! そんな手、誰がひっかかるか」
トイレに一歩足を踏み入れるが誰もいない。青年の注意は完全に個室の方へと注がれている。
「何だ? ね、猫でも迷い込んだか?」
独り言のようにボトボトと呟いている青年の背後に静かに立つと、ヒロシは完全にこちらに気付いていない彼の肩を二、三度ほど叩いた。
「……あっひゃぁあわ!」
振り向きざま青年は銃口をこちらへ向けた。すかさずヒロシがそのもたついた隙を見て拳を叩きこむ。オートマの銃が横手に吹っ飛び、壁にカツンと当たった。
「いいか、騒ぐんじゃない。僕の言う事に大人しく従えば何もしな……」
「びゃああああ! てろぇ、てろっ、テロリストぉお☆゛@ぁ%!」
――あ、駄目だ
パニクっていて、コイツに話は通じない。
「だったら多少手荒な方法で行きます。――舌噛まないよう食いしばっておけッ!」
叫びながらヒロシは思い切り彼の顎に綺麗に一撃を浴びせた。ボクシングの試合なんかで見られるような実に華麗なフックが叩きこまれる。抵抗する間もなく青年はその場で脳震盪を起こしてふらついて倒れてしまった。
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