ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 05-4.奪還かくれんぼ


 取材陣が公開処刑(と、言うと激しく激昂されるので儀式と呼ばなくてはいけないらしい)を聞きつけて基地内に溢れかえる。

「俺も正直、生贄みたいでどうかなって思ったけど……言われてみりゃ、昔から似たような事してきたもんな。それにそいつ一人でこのおかしな状況が何とかなるかもしれないんだろ? なら別に全部が全部悪い事のような気もしないぜ……藁にも縋りたい、ってんじゃないけどさぁ」
「だよなあ。何か言い方悪いけどこれに批判するのっていちいち豚や牛の死を悲しみながら肉を食べる事とおんなじなんじゃねえの……頭が麻痺ってるからそう思えるのかなぁ」

 いつの間にやら、基地の中にはどうやってこんな最中を潜りぬけて来たのか一般市民と思われる連中も集まっているようだ。好奇心で覗きに来た者もいるだろうし、先程の演説に何かを感じて入信したいと思ってやってきた者なんかもいるのかもしれない。

「それにそいつのせいで、ゾンビが溢れかえってるって話もあるそうじゃん。だったら責任とって命差し出すってのもありなんじゃねーの、ぶっちゃけて人の事なんかどうでもいいよ。俺は自分の身が一番可愛いし。つーか誰だってそういうもんだろ?」
「だよなー。もしそれがマジならお前のせいで何人死んだと思ってんのって感じだし、そいつ一人で何億人も助かるんならさ、もうそれでいいじゃん……俺はこの処刑、賛成。色々言うのに疲れた、めんどい」
「あーあ。俺、洸倫教入っちゃおうかな。実はさ、俺誘われたんだよ。田所さんに。とりあえずそん時はパスしといたけど今からでも入るべきかな、これからの事を考えても――」
「――お前ら」

 すっかりペチャペチャと雑談モードに入っていた隊員達の背後から現れるのはいつになく険しい顔つきのノラだった。それでもまあ、あの胡散臭い笑顔は絶やさずにノラは二人の肩に背後から手を回すと真中に割って入る格好になった。

「持ち場離れて私語までして。随分余裕そうじゃないか。ん? ん?」
「あ……わ、若様。おお、お・お疲れ様デース」
「あああ、相変わらず、つややかですべすべなお顔ですね」
「挨拶はいい。今から起きる事、知らないわけじゃあないよね?」
「は、はい、ええ、うん、ハイッ」
「よーし、言ったね。じゃあ、君らがやる事は一つ。ここの警備だ。興味本位で処刑覗きに来たりするんじゃないよ、いいよね? 分かったら持ち場に戻る、戻る。ほいっ、回れ右!」

 軽快なテンポでまとめられたかと思うと、背中をドンと押されて二人は慌てて走り出した。

――あとは……

 と、ノラが取材陣から離れた田所の姿を見つけ、自然さを装ってそこへ近づく。

「よう、随分とまた素晴らし〜い事言ってたじゃない。何度拍手を送りたくなったか、あはは」
「はッ、これは若様。いえいえ、自分には勿体なきお言葉です!」
「いやいや。その調子で頼んだよ。……失敗だけは許されないからな?」
「勿論ですとも! 執行の役目、この田所が見事に遂行してみせます、ええ! 若様はもう大船に乗った気持ちでドーンと構えてください。ドーンと」
「……ははー、期待してるよ。ん、ところで一般人が侵入してないかちょっと見てきて欲しいんだ。倉庫の方なんか警備が手薄になりがちだからが怪しいね。俺もあっち側を見て回ってるところなんだけど。関係の無い連中に、人んちの神聖な儀式を土足で踏み荒らされたくないだろ〜」
「了解しました、すぐに!」

 ヒロシが作業を終える為に遠ざけて時間稼ぎするための単純な陽動だが、田所はすんなりと信じてくれたらしい。田所はいつも傍に置いている直属の部下・ヨシオカを引き連れるとさっと背を向けて歩き出した。ひとまず、といった様子でノラがフッと息を吐いた。
そんな彼から離れて行きながら田所は忌々しそうに舌打ちをした。

「はぁっ、クッソ生意気なガキだぜ。気に入らねえよなぁ……いつまであんなボンクラ息子にゴマをすり続けなきゃならんのだか!」
「ええ〜……? あんなに高く評価してたじゃないですか。射撃と狙撃の腕前なんかは、正直自分でも適わないって」
「腕前だけだッ! 俺様は実力がある者には素直に評価するからなぁ、だがその人間性が好きか嫌いかはまた別の場所で評価する! あー。忌々しい、薄汚い小僧の分際でいっつも俺の事監視する様な目で見てやがる。いいか、あいつ俺達の味方のようなふりしてるが裏じゃあ何を工作してるかさーーーっぱり読めん。俺の予想じゃあ今回の件に関しても、手柄を横取りする気でいるんだ。あの眼鏡のガキを捕らえたのもきっと自分のお陰だと思いこんでやがる、くそっくそっくそっ、ションベン臭いクソガキの癖してェ!」

 はあ、とヨシオカは分かっているようで分かっていない返答をよこした。田所は苛立ちながら倉庫の巡回を続ける。

「あいつが何か甘い言葉を吐いてきても信用するなよ。……いいかっ! 今回、一番活躍したのは俺なんだからな! お・れ!」

 八つ当たりのつもりか、田所は路駐されていた軍用のトラックを思い切りコンバットブーツの底で蹴り飛ばしたのであった。

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