ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 05-3.奪還かくれんぼ

 田所は取材陣に囲まれながら、何やらインタビューを受けているようだった。

「これは世界の歴史に刻まれる瞬間ですよ、皆々様〜〜! ジークフリード様の仰られる通り、すーぐ世界に平和が戻りますからねーっ」

 オーバーリアクションで構えながら田所は演説でも気取っているのかカメラ目線で穏やかな口調で話している。カメラが遠いのが気に入らなかったのか、田所はカメラマンにもっと近づくよう人差し指をちょいと上げてクイクイと呼びよせる仕草をした。

「しかしここで勘違いしてはいけないのは……洸倫教を敬う清らかな気持ちが無くては貴方達は救われないぞ、という事なのです。……よろしいでしょうか、みなさん? 分かりましたか? おっほん。……祈りを捧げて下さい、皆の平和を願いそしてこの世の救世主となるジークフリード様と洸倫教に栄えあるように祈らなくてはいけません。さあ、今こそ国民一丸となって祈りを捧げましょうッ。日本の輝かしい未来と、繁栄を願って。そしてジークフリード様の更なる飛躍に〜」

 カメラマンは若干迷惑そうな、そしてその芝居がかったキモチワルイ台詞回しと、やや女性的な仕草にどっ引いたような顔をしているが田所はお構いなしに続けた。ふと、その演説に一人の女性アナウンサーが言葉を挟んだ。

「あの、お言葉ですが……」
「ん、何でしょうか? 美しいお嬢さん」
「国民達の間では一部、反発の声も上がっております。いくらなんでも公開処刑……、それも全国ネットでそれを晒すというのはいくらなんでも残酷すぎる、神経を疑う……との声も囁かれているのはご存知なのでしょうか?」

 アナウンサーから向けられた言葉に田所は目に見えて不愉快そうな表情を浮かべた。

「何だってぇえ?」

 それから彼女のマイクをぶんどると、田所は嫌悪感をあらわに絶叫する。

「残酷……とは。これを残酷だと言うのはつまり私たちは排泄しませんと言っているのと同じだと思うがねえ……処刑……いや、この行いを我々は儀式と呼ぼう。聖なる儀式なんだよ、これは。いいかい、諸君」

 田所はジークフリードと違って感情的に叫んだり喚き散らしたりするような演説はしないらしいが(たまにミュージカル調になるのは置いといて)、静かに怒っているのは何となく伝わる。

「我々人類はこれまでにも、飢餓や日照りを凌ぐためにどんな事をやってきたと思う?……人柱や人身御供、そう、神に生贄を捧げる事。これは君達の祖先もごく当たり前にやってきた事だし今も世界のどこかでは行われている、立派な儀式なんだよ。これを否定するのはつまり自分達の歴史を否定するも同じ愚行だ……という、私の持論があるんだけど、どうかな? ン?」

 そして中継を眺めているのは、家の中に閉じこもっている全国の国民もそうだが避難所で生活をしている皆も同じであった。

「ひどい……」

 そう呟くのは避難所の中でテレビを眺めていたユウの父親であった。その隣で祖母がその手を握り締める。
 場面変わって、今度は別の地域でのとある高層マンションの最上階の一室。テレビを眺めるのはヤブの姉・こと奈々であった。こんな時でもワンカップの日本酒片手に、奈々はその中継を眺めていた。

『あ、そうだ。いい事思い出した。今だって家を建てる時に一緒に人形を埋めたりするだろう? あれだって、埋める対象を人から人形に移しただけで、箱を開けてみれば結局はおんなじ行為じゃないかねぇ? どうかな?』
「生きてる人間と同等に扱うなっつーの、馬鹿じゃないのこの電波野郎」

 奈々が豪快に酒を煽りながら悪態をついた。

『蛮行だと罵っておきながらそうやって形を変えて未だにその風習が残っているのは一体どうしてなんだい?』

 また別の場所でその演説を聞いているのは、とある民家にてその身を隠す親子だった。怖がる娘の髪を優しく撫でながら父親はそのテレビを眺めている。

『人々がそうやって少しでも逃れたいからではないのか? そう、恐怖から。悪い事じゃあ〜ない、誰だって怖いものは恐ろしいからね。特に目に見えないものへの恐怖に、人々は過敏だ』
「……ぱぱ」
「……大丈夫だよ……」
『そこから解放されるには並大抵の精神力では適わない。多くの人間の精神は脆い。だから我々はいつの時代でもそうやって打開策を作りだしている――ただそれだけじゃあないか。ん、ん、ん〜? 今回の儀式だって全く同じ事さ』

 そしてそのテレビを見ているのは、ユウ達も同じだった。携帯の小さな画面を通じて、ユウ達はその言葉に耳を傾けていた。

『野蛮だと罵っているクソみたいな連中は、きっとこの行為を肯定する事は殺人を肯定する事と同じだと捉えているからそう思うんでしょう。……でしたら、考えを改めてください。これは決して殺人等では無い、罪を感じる事は無い。私達が未来へと進む為の必要な行為なのですから』
「この野郎……さっき会ったばっかりだが相変わらず不愉快な事抜かしてるな、一つも納得できん」

 忌々しそうに石丸が呟く。ミイもやはり眉間に皺を寄せた気難しい顔のまま、首を横に振った。

「……こいつの言っている事もあのおかしな教祖の言っている事も何ら納得できないが、もう弱り果てて藁にでもすがりたい思いの人達からすればどう聞こえるんだろうな?」

 ヤブは相変わらず目を潤ませたまま、顔を伏せている。耳を、あるいは心を閉ざしているのか聞きたくもなさそうな顔をしている。

「――やっぱり、許せない。こいつも、教祖も、こんな世界にしたヤツも」

 ユウが立ち上がる。

「行こう、早くヒロシくんを助けに行かなきゃ」
「ああ。それは勿論! 行くぜ俺は」

 石丸も準備万端のようだ。鉄パイプ(凄くどうでもいいが、石丸は同級生達から『この学校で一番鉄パイプの似合う男』と言われていた。流石は影で『関東れんごー』とあだ名をつけられるだけある男だ……)を担ぎながら意気揚々とユウの肩を抱いた。ミイとヤブも立ち上がり、一同が互いに目を合わせた後頷いた。



野獣先輩の役どころの名前、
本当は田所っていうのみんな知ってた?


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