ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 02-6.その強さがあれば


 だが僅かに、弾の方が早く、弾はハイドラの右目に被弾した。ハイドラは僅かに後退した。

「……当たった……や、やったか!?」

 撃った本人である狙撃手とは別に、誰かが叫ぶのが聞こえた。

「い、い、痛ぇなチッキショ〜〜〜!」

 ハイドラは撃たれた右目を押さえて溢れてくる痛みと、そして流血に絶叫した。魔王とあっても血は赤いらしい、押さえている手の隙間から真っ赤な血がどくどくととめどなく流れ出している。

「な、に、してくれてんだぁ、このバカ! バカバカバカバカバカバカ、チンカス小僧がぁ! ひぃっ、いだいいいぃ」
「撃て! 今だ、撃て!」

 それが合図となり一斉に弾丸の雨が降り注ぐ。ハイドラは舌打ちするとマントを一度翻す。ここは悔しいが撤退する必要があった――今はこの傷を癒さなくては……!

 既に先の戦いで力を消耗してはいたが、残る力でハイドラはその場から姿を消した。テレポートと呼ばれる能力だろう、跡形も無くハイドラの姿が消え去っていた。

「くそ、逃がしたか!」

 白煙の先には既にその姿は無い。残るのはかつての仲間たちだった隊員のなれの果てや、ゾンビ化していた罪の無い町民たちだ。思考能力を奪われた彼らに、一切の話は通じない――攻撃の手が緩んだ隙を見て、疲れを知らない死体達が一斉に襲いかかってくる。

「あああああ!?」

 リロードにもたついていた奴がまず餌食になった。顔の肉を食い千切られている。頬の肉を丸ごと持っていかれ、顔半分が抉られたのが見えた。更にその足元にはまた別のゾンビがしがみついており、すぐにアキレス腱ごと食らいつかれてしまった。

「糞ったれが……ぁ」

 一人、また一人、と。犠牲者が増えて行く。悪夢だ、悪夢そのものと化しているんだこの街は……いや世界全体が直に悪夢に包まれるんだ。力無く、隊員のうちの一人がふらふらと壁にもたれかかる。そのすぐ背後のガラスが音を立て割れたかと思うと、無数の腕が飛び出して来た。隊員はあっという間にその腕達に引っ張り込まれて、消えた。

「ヒー……ヒーエー……ちくしょう、ぢぎじょう〜……目、目がぁ……僕の目が、あっ、あ、アニメが見られねえじゃねえかぁっ、どうしてくれるんだバッカやろーぉ……」

 ハイドラは真っ赤に染まる視界をその手で覆いながらフラフラと彷徨った。

 目だけでは無い、あの瞬間にいくつかの弾がその全身めがけて放り込まれてしまった。ぼーっとしてたのがいけなかった、撃たれた箇所がまるで燃えているように熱を孕んで痛い――例の力によって内部に残されていた弾丸は全て放り出したが、それでも連続して力を使いすぎたゆえか傷はまだ塞ぎ切れていない。よって、痛い。めちゃくちゃ痛い。

「畜生! ちくしょーあの人間風情! よくも、よくも僕のカッチョイイ衣装を穴だらけにしてくれた上に俺を撃ったな……畜生……畜生……イタイ……痛いよぉ……お、おがぁざ……っ、クソォ、頭が……頭が割れちゃうよぉ。何なんだ! ネクロノミコン、おい。しっかりしてくれよ〜、うべべぇ、回復は! 傷の治療はどうなってんだゴラァ〜! ははっ・早くいつもみたいにベホマかけてくれよベホマぁ〜!」
「ううううう」

 腰にぶら下がった『ペット』の山科の首が呻いた。また何か泣きごとを言っている。普段ならこれが爽快なのだが今は耳ざわりでしか無かった。

「ルッセーんだよ、首だけ野郎! ぶっ殺すぞ!」
「ウウッ……ううー」

 徐々に狭く、浅くなっていく呼吸の中、ハイドラは身体を起こし少しでも遠くへ行こうとその足を進めた。だが、傷の回復は遅く全身を包む痛みは加速するばかりだ。炎にでも包まれている様な痛みの最中、ハイドラは歩いてくる一人の影を察知した。

 敵か味方かで言えば、自分には敵しかいない(が、ゾンビは別だ)ので恐らく戦いは避けられない。つまり、また力を使う事になる――それはちと厄介だ。

 ハイドラは身構えるとその人物を睨んだ。やがて、その人物の全貌が見えた。

「……?」

 目が合う。幸いにもそいつは只の一般人のようで、見たところ武器も何も持っていない。よれよれのシャツに、薄汚れたジーンズ。正直言って冴えないダサダサな、もっと言えばみすぼらしい貧相な出で立ち。おまけにぼさぼさの髪は一見して不潔だった。まだ若そうな雰囲気を纏わせているが、汚らしい身なりのせいでそれさえもどうでもよくなってくる。

「――何見てんだよ、ボケがぁ……、ゾンビになりたいのか、おんどれーっ」
「はい。あ、あ、ああ・あの」

 何がはい、だ。――そいつはやけに素直に頷いて、愚鈍そうな目つきを彷徨わせていた。

「やかましい! 見逃してやっからとっととどこかへ行け!……さ、叫ぶと痛いよぅ! ママぁ……うっ、うっ」

 だが、そのくたびれた感じのする青年は動かなかった。それどころか荷物を捨てて小走り気味に近づいてくる。脚をそんなに持ち上げないせいなのか、彼が移動すると靴底が地面と擦れあい「ザッ、ザッ、ザッ」と極端な音が響いた。こんなにバレバレな足音を響かせながら気付けないくらい、今、自分の身体は消耗しきっているのだ。

「く、来るんじゃねえ! 頭吹っ飛ばすぞ!」
「……はい。で、で、で、でも、怪我をしている」

 どもった調子で青年は言いながら近づいて来るなり、傍で腰を降ろした。

「た、たた、立てる?」
「あぁ!?」
「い、い、家、お、俺の家……」

 そう言って青年は遠くの方を指差した。自分の家がそこにある、とでも言いたいのだろうか。それはつまり、自分の家に連れ込もうって魂胆か? 僕を?……いやいや変な意味でなくて、治療の為に?

「……正気か? アンタ」

 思わず本気で聞いてしまった。青年は逆に不思議そうな顔でこちらを見つめて来る。困っている人がいるんだから助けて当たり前じゃないか。青年はそう言いたげな顔つきだった……。




絵描きの子も結構性格変わってますね。
どもり口調なのは変わらずですが、
喋りだす時に「はい」をつけるという
癖が増えたみたいです。
このように結構口癖みたいなのが追加された
キャラが大勢いますね。


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