ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 02-1.僕のぶち壊したい日常


 僕はいわゆるイジメというものにあっています。

 今日は下駄箱の靴に牛乳をかけられていました。次は一体どんな事をしてくるつもりなんでしょう? だけど僕は休みたくないのです……何故なら、欠席は内申書等に響いて行きたい大学の推薦をもらうのには不利になってしまうからです。
 最初の嫌がらせを潜り抜けて教室へと入り席に着くと、何と机に『死ね』と書かれていました。幸いにもシャープペンだったのですぐに消す事が出来ました。あぶない、あぶない。彫刻等で削られた日なんかには、どうすればいいものだろうと頭を抱えましたがそれでは逆に証拠として残ってしまうと奴らも思ったのでしょう。それをやられたのは一度きりでした。
 消しゴムでそれを綺麗に消去し、一仕事終えて一息ついていると不意に背後からポンと肩を叩かれました。友達? いいえ、とんでもない。僕に友達なんて存在していません。僕の友達になれば、その人がいじめに巻き込まれかねませんし、みんなして僕を避けます。よって、僕はこの場所には敵しかいません。

「おはよー、エロス。今日も笑顔が最っ高キモイよ」

 どうやら『エロス』というのが僕の影のあだ名らしいのです……僕が英語の時間、『else』の発音を良くしすぎたらしくエロスという響きに聞こえた、と言うのが由来らしいのです。

 そんなクダラナイ理由で卑猥なあだ名をつけられたくありません。

 僕をイジメているのは女子達からはヤマピーと呼ばれ、クラスでは人気者の山科です。僕の名前も山尾というのですが何故僕はエロスで山科はヤマピーなんでしょうか? これでは扱いの差があんまりです。
 山科はサッカー部で、いつもチャラチャラとした取り巻きを引き連れた奴です。僕がいつ何をしたのかは分からないのですが僕は山科に目をつけられてしまったのです。

「エロスまじうぜぇ〜、くそキモ」

 取り巻きの奴らのひそひそ声が僕の耳に入ります。これだから低知能のサルどもは腹が立つんです。群れる事しか出来ないで、単独では行動できない。そして連中の吐く言葉は大体いつもパターン化しているのです、うざい、きもい、死ね、消えろ、空気読めてない……。

「何か臭くない?」
「マジだ、牛乳くっせぇ」

 それからわざとらしく、ゲラゲラと笑う様な声がします。どうせ僕の事を言っているに違いないのです……けれどいちいち気にしていてはキリがないので、僕は気にならないふりをしつつ席に座り続けています――。
 授業中、頭が何だかピシピシと痛むので後頭部に触れてみると、髪の毛にたくさん消しゴムのカスのようなものがひっついていました。

 何て陰湿な嫌がらせでしょう。そして、勿体ないです。

 奴らをムカつかせないように最大限に気を配りながら背後を見れば、山科とその取り巻きたちがニヤニヤと下品な笑顔で笑っていました。なんて、なんて下品な奴らでしょうか――本当にいつか、殺してやる。

 中間考査の、クラス順位の結果がまわってきた時なんかは最悪の極みでした。あれだけ勉強した僕が二位で、一位が山科です。なぜ……、と僕は言葉すら出ませんでした。山科が涼しげな顔をしてその結果を書かれた紙を受け取り席に戻りすぎる際、僕は言ってやりました。


「どうせカンニングでしょ?」


――ほとんど無意識だったんです…… 、



 僕は気が付くと知らず知らずのうちにそんな風に口走っていて、山科はそれを聞いているのかいないのか一瞬こっちをちらっと見ただけで何もせずに席へと戻って行きました。

 次の休み時間、後ろから羽交い締めにされ椅子からずり落とされたかと思うと途端に服を脱がされて、殴る・蹴るの暴行です。これも毎度の事です、奴らはムカつく事があれば必ず僕の元へとやってきて、そしてこんな風にして僕をサンドバックにするのです。ただし山科本人は手を出さないのです……にやにやとしながら無様な僕のこの姿を腕組姿勢で眺めるのみです。

 周りは皆見て見ぬふりです。仕方ありません、それが人間と言うものでしょう。

「僻んでんじゃねーぞ、エロスのくせに」

 その日の掃除の時間、僕の机を誰が下げるかで、女の子達が本気でもめているのを見てしまいました。誰も僕の机に触りたくないと――、しまいにはじゃんけんです。悲しくなりました。

 誰も僕に味方なんてしない。 誰も僕を助けてなんてくれない、そうだ誰も……。教師なんてしょせん役立たずの集まりなんだ。この学校へ入って僕はつくづくそう思うようになりました。 許される事なら僕は、こんな日常を壊してしまいたい。
 それを行使するのは簡単かもしれないけれどそれでは犯罪と同じだ。……僕が罪を被る様な真似はまっぴらご免だ。こんな奴らの為に僕の人生を棒に振るなんて、そんなの間違っているからです。人と比べて頭のいい方である僕は、そんな浅はかな真似はやりません。絶対に。

 誰にも咎められる事無く、僕はこの歪みを取り去りたいのだ。けどもそんな願いが叶う筈も無く、僕は卒業までの時間を只刻一刻と過ごすだけだった。





小学生ってたまにひっでぇあだ名つけるよな。
前空手してたんだけど、そん時に
そのまんま「ブー」って呼ばれてる子が
いたんだ。(見た目はあだ名からお察し)
試合中、ブーの師匠と思しき人間までもが
「ブー! 下がるな下がるなブー!!
自分から行くんやブー!!
気迫で負けんなブー! ブー! ブー!!」
って豚のようにブーブー連呼しまくってて
半ばいじめに近いものを感じたあの日。
ブーよそれでいいのか?

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